ティール組織とは?メリット・デメリットや導入企業の事例を紹介

お役立ち記事 2020.09.08
ティール組織とは


近年、新しい組織のあり方の1つとして、注目されている「ティール組織」。「自社でも取り入れていきたい」と思う一方で、「ティール組織の詳細が分からない」「ティール組織が本当に実現できるのか疑問を感じる」といった経営者の方もいるでしょう。
 
今回は、ティール組織の概要やメリット・デメリット、ティール組織を実現させるためのポイントなどを、導入企業の事例を交えながら、紹介します。

ティール組織とは

ティール組織とは、組織の目的の実現に向け、全メンバーが意思決定を行う自律的な組織のこと。経営者や上司が、部下を一方的にマネジメントしなくても、組織自体がまるで「生命体」のように進化し続ける組織とも表現されます。また、ティール組織は、メンバー一人ひとりが組織のルールや仕組みを理解し、独自に考え、意思決定を行うことで成り立ちます。ティール組織が注目された背景や、従来の組織との比較、ホラクラシーとの違いなどについて紹介します。
 

ティール組織が注目された背景

ティール組織は、フレデリック・ラルーが2014年に出版した著書『Reinventing Organizations』において、初めて紹介された概念です。2018年には日本語版の『ティール組織 マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』が出版され、ベストセラーとなりました。「これまでの組織論の常識を覆している」「従来の組織の問題を解決できる可能性がある」といった点が評価され、特に経営者やマネージャー層から注目を集めています。
 

従来の「達成型組織」との比較

『ティール組織 マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』の中で、従来の組織は「達成型組織」と表現されています。「ティール組織」と「達成型組織」の違いを表にまとめました。
 

ティール組織達成型組織
メンバーを奮い立たせるもの「会社の存在目的に対して、貢献できていますか」という問い「自分たちが頑張らなければ、会社が倒産してしまう」というプレッシャー
意思決定の方法地位の高さに関係なく、「これをする必要がある」と感じた人が提案し、周囲に助言を求める「役員」「部長」「課長」など、上位の役職の人が意思決定をする
仕事への取り組み方必要だと感じた仕事に、自発的に取り組む上司から任された仕事に、従属的に取り組む
「職場での自分」と「本来の自分」「職場での自分」と「本来の自分」に乖離がない
(職場では、「ありのままの自分」を全てさらけ出すことができる)
「職場での自分」と「本来の自分」に乖離がある
(職場では、仕事の成果に直結する力しか発揮できない)

「達成型組織」とは、上下関係に基づいたマネジメントを行う組織のこと。ほとんどの企業が、達成型組織とされています。達成型組織では、「自分たちが頑張らないと、会社が滅んでしまう」というプレッシャーが、メンバーを奮い立たせています。意思決定は基本的に「役員」「部長」「課長」など上位の立場にある人が行い、下位の立場にある人が意思決定を行う機会はほとんどありません。そのため、メンバーは上司の指示に従い、従属的に仕事を行います。また、職場では仕事の成果に直結する力しか発揮することができず、「職場での自分」と「本来の自分」に乖離があります。
 
達成型組織は、高い成果を生み出す効果がある一方で、「他社との競争を意識し続ける必要がある」「上の立場になるために、自分をよりよく見せたいというエゴが生まれる」「本来の自分の姿を見失ってしまう」など、メンバーを疲弊させる副作用もあるとされています。
 
一方、ティール組織では、「会社の存在目的に対して貢献できますか?」という問いをメンバーにすることで、一人ひとりを奮い立たせています。意思決定は、地位の高さに関係なく、「これをやる必要がある」と考えた人が提案し、周囲に助言を求めるという形で行われます。そのため、メンバー一人ひとりは、必要だと感じた仕事に自発的に取り組むことができます。また職場では、メンバー一人ひとりが安心してかつ自由に発言・行動できる状態である「心理的安全性」が担保されているため、「ありのままの自分」を全てさらけ出すことができます。そのため、「職場での自分」と「本来の自分」に乖離はありません。
 
こうした特徴があることから、達成型組織で生じるメンバーの疲弊が、ティール組織では発生しにくいとされています。

 
このように、「ティール組織」と「達成型組織」とでは、性質が全く異なります。「達成型組織」の問題を根底から解決できる可能性があるのが「ティール組織」だと理解すると良いでしょう。
 

ホラクラシーとの違い

「ティール組織」と比較されることが多いのが、「ホラクラシー」です。ホラクラシーとは、「経営者」「役員」といった役職自体を持たないティール組織のこと。ティール組織には、「役職を残しながら」経営を行う形態と、「役職を持たずに」経営を行う形態の2種類がありますが、ホラクラシーは後者の形態を指します。メンバー一人ひとりの自由度や責任がより大きいティール組織の形態が、ホラクラシーであると理解すると良いでしょう。
 

どんな企業が導入すべきなのか?

「どんな企業が導入すべきなのか」という問いに対する明確な答えはありません。しかし、ティール組織の特徴を踏まえると、ヒントを見つけることができます。
 
ティール組織はこれまでの組織とは一線を画すものであるため、社内に浸透させるにはある程度の時間がかかると想定されます。そうした労力を考慮してもなお、経営者が「組織を変える必要がある」と考えていることが大前提となるでしょう。例として、「新事業を始めたい企業」や「イノベーションを創出したい企業」「顧客満足だけでなく、メンバー全員の満足も追求したい企業」などが考えられます。そのためには、経営基盤が安定しており、変革を起こすだけの余裕が持てる状態にあることが重要となるでしょう。
 
また、ティール組織ではメンバー一人ひとりの自発的な行動が求められるため、「メンバーとの信頼関係が築けている企業」や「メンバーの声を大切にしているボトムアップ思考の企業」であることも重要だと考えられます。
 

ティール組織のメリット

ティール組織には、どのようなメリットがあるのでしょうか。ティール組織のメリットを紹介します。
 

メンバーの主体性や当事者意識が高まる

ティール組織では、役職ではなく、メンバー一人ひとりの能力に応じて、役割を割り振ります。また、その役割の範囲内で、「必要だと感じる仕事」に自発的に取り組むことが可能です。メンバー一人ひとりの自律的な行動が重視されるため、メンバーの主体性や当事者意識が高まる効果が期待できます。それにより、組織の一員であるという「帰属意識」が高まり、会社に対する信頼度や貢献意欲を意味する「従業員エンゲージメント」の向上にもつながるでしょう。


「計画を実行する人」を増やすことができる

従来型の組織では、「計画を立てる人(管理職)」と「計画を実行する人(現場のスタッフ)」が分かれており、人材不足の企業ではその両方を勤務する「プレイングマネージャー」が複数人いることも少なくありません。企業の業績を改善させるためには、プレイングマネージャーを減らし、「計画を実行する人」を増やすことが不可欠です。ティール組織を導入することで、組織がフラットになり、「計画を実行する人」が増えるとされています。「計画を実行する人」が増えることで、より業務を円滑に進められるようになり、生産性の向上にもつながるでしょう。


変化に対応しやすく、打たれ強い組織になる

近年、AI・IoTの浸透やグローバル化などにより、市場やビジネスモデルなど企業を取り巻く環境が急速に変化しているとされています。そうした状況の中、企業として成長し続けるために適した組織形態だと考えられているのが、ティール組織です。ティール組織を導入することで、メンバーの主体性や当事者意識を高め、「計画を実行する人」を増やすことができます。それにより、即時に判断・対応していく能力である「アジリティ」が高まり、変化に対応しやすくなるでしょう。変化への迅速な対応を繰り返し行うことで、逆境から素早く立ち直り成長する能力である「レジリエンス」が高まり、打たれ強い組織になる効果も期待できます。



ティール組織のデメリット

ティール組織にはさまざまなメリットもある反面、デメリットもあります。ティール組織のデメリットについて、紹介します。
 

メンバーの「セルフマネジメント力」が高くないと、組織として成り立たない

ティール組織では、メンバー一人ひとりに意思決定の権利を認めています。その前提となっているのが、自分自身の行動に責任を持ち、自分自身を律する「セルフマネジメント力」です。そのため、メンバーの「セルフマネジメント力」が高くないと、組織として成り立たなくなる可能性があります。「セルフマネジメント力」が低下した状態が続くと、企業の生産性も低下するでしょう。
 
そうした状況を防ぐためには、メンバーの「セルフマネジメント力」の低下が疑われた時点で、ただちに話し合いの場を設けることが重要です。「企業の存在目的」や「それを実現するための個々の役割」を再認識してもらった上で、「なぜ、セルフマネジメントができにくくなっているのか」「どうすれば、改善することができそうか」といった原因や改善策をじっくり時間をかけて解明しましょう。
 

プロジェクトの進捗状況の把握が難しくなる

ティール組織を導入している企業の中には、「管理職が存在しない」「明確な数値目標を設定しない」といった企業も少なくありません。そうした企業では、基本的に進捗管理もメンバー一人ひとりに委ねられているため、従来型の組織に比べ、プロジェクトの進捗状況の把握が難しくなります。プロジェクトの進捗状況が分からないと、「何か問題が発生していないか」「会社として、どういったサポートが必要か」といった判断がしにくくなるでしょう。
 
そうした課題を解決するためには、プロジェクトの開始前後に適切な対応を行う必要があります。プロジェクトの開始前にはミーティングを開き、プロジェクトの目標や期限などをメンバー全員に共有しましょう。またプロジェクト開始後は、「メンバーの出勤スケジュール」や「製品・サービスの売り上げ状況」「顧客とのやり取り」などを「いつでも」「だれでも」確認できる仕組みを作り、的確な判断ができるようにしておくことが重要です。また、1人だけで状況を判断するのが難しいケースに備え、同じチームのメンバーや他のチームのメンバーと気軽に情報共有や相談ができる場を設けるのも良いでしょう。
 

リスク管理が困難になる可能性がある

ティール組織には、「部下から上司へ」「上司から役員へ」「役員から経営者へ」といった明確な承認プロセスが存在しません。代わりに、メンバー全員が話し合い、プロジェクトの実施の是非や進め方などを最終決定します。仮に「収益性がそれほど高くないプロジェクト」や「成功する可能性が低いプロジェクト」であっても、内容が魅力的であれば、採用されてしまうこともあるでしょう。そのため、ティール組織を導入することで、リスク管理が困難になる可能性があります
 
そうした状況を防ぐためには、「企業として目指す姿を共通認識として持てていること」と「メンバーを信頼すること」が重要です。まずは、企業理念やミッション・ビジョン・バリューを示し、企業の存在目的を再認識してもらいましょう。その上で、「自分の組織にとって損となることを望むメンバーは一人もいない」という性善説に立ち、全メンバーを信頼します。また、誰かが新しいプロジェクトを立ち上げたら、すぐにその内容を社内で共有し、「自分の知っている情報を提供する」「専門性の高いメンバーがサポートに入る」など、全員でプロジェクトを進めることも重要です。そうした取り組みにより、自然とメンバー一人ひとりがリスクを認識できるようになり、プロジェクトの成功につながるでしょう。



ティール組織に至るまでの5つのフェーズ

ティール組織に至るまでには、5つのフェーズがあるとされています。5つのフェーズについて、順番に見ていきましょう。 

ティール組織に至るまでの5つのフェーズ


RED(レッド)組織

RED(レッド組織)とは、個人の力でメンバーを支配的にマネジメントする組織のこと。レッド組織は「オオカミの群れ」とも称されます。
 
最も古い組織形態であるレッド組織には、圧倒的に強い力を持つ個人が恐怖によりメンバーを支配をするという特徴があります。リーダーの力を重視している組織のため、メンバーはリーダーの力に従属することで、安心感を得るとされています。リーダーの力に大きく依存している、再現性の低い組織とも言えるでしょう。レッド組織では「組織として、今日明日をどう生き抜いていくか」に焦点を当てているため、短絡的・衝動的な行動が発生しやすい傾向にあります。
 

AMBER(コハク)組織

AMBER(コハク)組織とは、メンバー一人ひとりがその役割を厳格に全うする組織のこと。コハク組織は「軍隊」とも称されます。
 
コハク組織には、上意下達で厳格な社会的階級に基づくヒエラルキーが存在します。そのため、指示命令系統が明確で、メンバーは上から指示された役割を確実にこなす必要があります。「特定の個人への依存度が低くなる」「トップダウンで直属の部下に指示を出すことができる」「長期的な展望・計画を重視している」といった特徴があるため、レッド組織よりも、再現性が高く安定的な組織だとされています。しかし、コハク組織では、「今の環境はずっと変わらない」という前提のもと、同じ作業が繰り返し行われます。そのため、変化に対応しづらく、競争に適さないという課題があります。
 

ORANGE(オレンジ)組織

ORANGE(オレンジ)組織とは、ヒエラルキーは存在するものの、成果を出せば昇進可能な組織のこと。現代の一般的な企業の多くは、オレンジ組織に該当するとされています。
 
オレンジ組織は「機械」とも称され、「成果を上げる」ことを目的に、徹底した数値管理に基づくマネジメントが行われています。ヒエラルキーに流動性があるため、コハク組織よりも個人の能力が発揮されやすく、変化や競争にも柔軟に対応でき、イノベーションを創出しやすい傾向にあります。しかし、「個人の成果」や「メンバー間の競争」が重視されるあまり、「機械」のように働き続けることが求められ、「人間らしさ」の喪失につながりかねません。その結果、「人としての幸せは何か」という原点回帰が生まれ、働き方改革が推進されるようになったとされています。
 

GREEN(グリーン)組織

GREEN(グリーン)組織とは、メンバーが主体性を発揮しやすく、多様性が認められる組織のこと。グリーン組織は「家族」とも称されます。
 
グリーン組織ではヒエラルキーは存在するものの、メンバーの主体性や多様性が尊重されるため、オレンジ組織よりも「人間らしく」働くことができます。また、メンバー全員が意見を出し合い、合意を形成することも重視しています。そのため、メンバーにとって風通しの良い組織とされています。しかし、グリーン組織には、「合意の形成に時間がかかり、その間にビジネスチャンスを逃してしまう」「合意が形成できない場合、最終的に経営者の意思に委ねられる」といった課題もあります。
 

TEAL(ティール)組織

TEAL(ティール/青緑)組織とは、メンバーが主体的に意思決定を行う自律的な組織のこと。ティール組織は「生命体」とも称されます。
 
ティール組織は突然形成されるものではなく、オレンジ組織、グリーン組織と段階を踏んだ上で、初めて誕生するものだとされています。「組織はメンバー全員のものである」ことを共通認識としているティール組織には、明確な指示命令系統はありません。組織の目的を達成するために、メンバー一人ひとりの意思決定や主体的な行動が重視されます。そのため、グリーン組織よりも、変化に対応しやすいとされています。メンバー一人ひとりの考えや行動が、組織そのものに劇的な変化をもたらし、あたかも「生命体」のように組織が進化し続けていくでしょう。
 

ティール組織を実現するための3つのポイント

ティール組織を実現するためには、3つのポイントを押さえておくことが重要です。ティール組織を実現するための3つのポイントについて紹介します。
 

進化する目的

ティール組織を実現するための1つ目のポイントは、「進化する目的(エボリューションパーパス)」の設定です。「進化する目的(エボリューショナリーパーパス)」を設定するということは、環境の変化に対応しながら、組織の存在目的を進化させていくことを意味します。生き物が日々進化しているように、「生命体」と称されるティール組織も、日々進化を続けなければなりません。組織としての存在目的も、従来型の組織のように固定するのではなく、環境の変化に応じて進化させていく必要があります。
 
そのため、ティール組織のリーダーには、「組織として、成し遂げたいことは何か」「今、組織がどういう方向に向かっているのか」「どのくらいの速度で変化していきたいか」などを常に意識することが求められます。そうすることにより、常に進化し続ける組織を作り上げることができるでしょう。
 

自主経営

ティール組織を実現するための2つ目のポイントは、「自主経営(セルフマネジメント)」を行える仕組みや工夫を備えておくことです。自主経営を行うということは、経営者や上司の指示を仰ぐことなく、全メンバーが意思決定に関する権限や責任を持ち、自らの力を組織運営に活かすことを意味します。
 
自主経営を行えるようにするには、「経営者がメンバーを信用し、メンバーに裁量権を付与する」「意思決定の判断材料となる組織に関わる情報は基本的に開示する」といったことが不可欠です。加えて、「その時々の状況に応じて、メンバーの役割やチーム編成を変える」「他のメンバーから助言・支援を受けられる仕組みを構築する」などの工夫をすることで、より円滑に自主経営を行えるようになるでしょう。
 

全体性

ティール組織を実現するための3つ目のポイントは、全メンバーが個人としての「全体性(ホールネス)」を発揮することです。全体性を発揮するということは、メンバー一人ひとりが自身の能力を組織のために最大限発揮することを意味します。ティール組織において、全体性は自主経営をより効果的に行うために不可欠な要素の1つとされています。
 
全体性を発揮できるようにするためには、「心理的安全性を担保し、メンバー全員がありのままの自分をさらけ出せる状態にする」「メンバー一人ひとりの個性や多様性を最大限尊重する」といったことを意識すると良いでしょう。ティール組織の実現を図っている企業の中には、職場でもメンバーが自分らしくいられるよう、子どもやペットと一緒に働くことを受け入れているところもあるようです。
 

ティール組織の導入は失敗しやすい?

ティール組織は、従来型の組織とは性質が全く異なるため、「導入しても、失敗してしまうのではないか」と疑問に思う経営者の方もいるでしょう。実際、ティール組織を導入しようとする際、「メンバーの思いにずれがあるのではないか」「メンバーが会社のことを自分事として捉えてくれるのだろうか」「これまでとは一線を画す組織のため、なかなか浸透しないのではないか」と疑心暗鬼になってしまう経営者も少なくないようです。
 
そうした不安を解消するには、「自社の取り組みが、社会にどのような影響を与えているのかをメンバーに説明する」「企業理念やミッション・ビジョン・バリューの浸透を図る」「顧客からの感謝や励ましの声を共有する」「メンバー同士が互いを褒め合う文化を作る」といった方法が有効だと考えられます。また、ティール組織に移行するためには、「ヒエラルキーを無くす」「人事制度を改める」といった形式的な変化だけでなく、「メンバーの個性を尊重する」「メンバーの主体的な行動をサポートする」といった本質的な変化も必要となるでしょう。それらを意識することで、よりティール組織を導入しやすくなると考えられます。
 

ティール組織導入にあたっての注意点

ティール組織の導入に失敗しないためには、どういったことに気を付ける必要があるのでしょうか。ティール組織導入にあたっての注意点を紹介します。
 

メンバーとの対話を大切にする

ティール組織として、「自主経営」と「全体性」を確保するために特に必要なのが、メンバーとの対話です。メンバーとの対話を大切にすることで、「信頼関係の構築」や「心理的安全性の担保」をしやすくなるでしょう。メンバーと対話する際には、メンバーの本音を引き出せるよう、話しやすい雰囲気づくりを意識することも重要です。
 

メンバーに権限を分配する

「進化する目的」を持ちながら、「自主経営」を進めていくためには、メンバーに権限を分配することも重要です。上の立場の人ほど強い権限を持っている従来型の組織とは異なり、ティール組織ではメンバー全員が対等な権限を持つことが望ましいとされています。「まずは特定のプロジェクトに関する権限を、メンバーに分配する」「メンバーの権限を、徐々に拡大する」など、段階的に権限を分配していくと良いでしょう。
 

一方的な指示や管理は行わない

ティール組織は、「自主経営」を前提としています。そのため、従来型の組織のように上司が部下に指示を出したり、進捗状況を逐一管理したりすることは望ましくありません。自主経営を実現するため、一方的な指示や管理は行わないよう注意する必要があります。「何か問題が発生した際は、まずはメンバーの意見を聞いて、原因を分析する」「メンバーみんなで相談・協力し合い、問題を解決する」といったことを意識すると良いでしょう。
 

ティール組織を導入した日本企業の事例

日本企業の中には、ティール組織の実現に向けて動き出している企業もあります。実際に、ティール組織を導入している日本企業の事例を紹介します。
 

株式会社ネットプロテクションズホールディングス ~社員の自己実現と社会発展の両立~

「BtoB」や「BtoC」向けの決済サービスを提供している株式会社ネットプロテクションズでは、社員の自己実現と社会発展の両立を目的に、ティール組織を実現するための独自の人事制度「Natura」を導入しています。「Natura」により、マネージャー職が廃止され、代わりに各部署の「情報」「人材」「予算」の采配権限を持つ「カタリスト」という役割が新たに設けられました。「カタリスト」のメンバーは固定されておらず、期が変わるごとに流動的に変化します。
 
また職位については、5段階のグレードからなる「バンド制」を採用。成長支援・評価の目線合わせ・効果性向上などを目的に、全社員にグレードを開示しています。この他、「ディベロップメント・サポート面談」や「360度評価による昇格・昇給の決定」といった取り組みもあります。「Natura」を活用することで、社員の「自律」「分散」「協調」の実現を図っているようです。
 

九電グループ ~イノベーションの取組みを拡大・強化~

九州電力株式会社を始めとする九電グループでは、2018年7月、イノベーションの取組みを拡大・強化することを目的に、これまでの組織・業務運営の枠組みにとどまらない柔軟な組織「インキュベーションラボ」を設置しました。「インキュベーションラボ」は、まだ事業化に至っていない個別有望案件に関する「プロジェクトの構築」や「事業化の可否の検討」「検討の促進・支援」といった役割を担っています。「インキュベーションラボ」の設置により、迅速かつ柔軟な意思決定の推進を図っているようです。
 

NPO法人 場とつながりラボhome’s vi  ~ホラクラシーを導入~

それぞれの個性が最大限発揮できる集団や社会のあり方を研究・実践しているNPO法人 場とつながりラボhome’s viでは、2017年からティール組織の1つの形態であるホラクラシーの導入を始めました。もともと、一人ひとりの意思が尊重される家族のような温かみのある組織でしたが、ホラクラシー導入以前は仲が良すぎるあまり、「合意が形成されるまで全員でじっくり時間をかけて話し合うため、ビジネスチャンスを逃してしまう」「新しく何かを始めることに抵抗があるメンバーに遠慮してしまい、新しいことに挑戦しにくい」といったグリーン組織特有のジレンマに陥っていました。
 
そこで、そうした課題を解決するため、「役割の整理」「組織構造や運営に関するミーティングの開催」「ミーティングのファシリテーターの育成」といった取り組みを実施。その上で、ホラクラシーの導入に踏み切りました。ホラクラシーの導入により、「組織の目的を、自分ごととして捉えるメンバーが増えた」「誰が、何の目的で、どのような役割を担っているのかがより明確になった」「メンバー一人ひとりが安心してチャレンジできるようになった」など、さまざまな良い影響がもたらされているようです。

(参考:『実務でつかむ!ティール組織 ”成果も人も大切にする”次世代型組織へのアプローチ』(大和出版)【著】吉原史郎)
 

ティール組織を学べる本

ティール組織について学びたい方にオススメの本を紹介します。
 

『ティール組織 マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(英知出版)【著】フレデリック・ラルー

ティール組織が、日本で認知されるきっかけとなった一冊。ティール組織の概要や作り方などを詳しく解説しています。ティール組織について深く学びたい方や、これからティール組織を構築していきたい方にオススメの本です。
 

『実務でつかむ!ティール組織 ”成果も人も大切にする”次世代型組織へのアプローチ』(大和出版)【著】吉原史郎

日本初のホラクラシー認定ファシリテーターが著した一冊。次世代型組織の土台作りに取り組んでい企業の事例をもとに、具体的な取り入れ方や問題解決方法を解説しています。ティール組織の特徴を分かりやすく説明している本のため、ティール組織について一から学びたい方にオススメです。
 

『自主経営組織のはじめ方 現場で決めるチームをつくる』(英知出版)【著】アストリッド・フェルメール/ベン・ウェンティング

ティール組織を実現するポイントの1つである「自主経営」について紹介した1冊。既存の組織を変革する際のポイントや注意点などを解説しています。ティール組織を実現したい経営者や、組織づくりを担っている経営企画や人事部門の担当者にオススメの本です。
 

変化に対応できる新しい組織のあり方として、ティール組織の導入を検討しよう

メンバーが主体的に意思決定を行う自律的な組織であるティール組織には、「メンバーの主体性や当事者意識が高まる」「変化に対応しやすく、打たれ強い組織になる」といったメリットがあります。ティール組織を実現するためには、「進化する目的」「自主経営」「全体性」という3つのポイントを押さえることが重要です。
 
変化に対応できる新しい組織のあり方として、ティール組織の導入を検討してみてはいかがでしょうか。

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