レジリエンスとは?ビジネスにおける重要度や組織で向上する方法

お役立ち記事 2020.07.09
レジリエンスとは


ストレスやプレッシャーを跳ね返す力を指す「レジリエンス」。「レジリエンスとはどのようなものか」「今後、自社にとって必要となってくるものなのか」など、気になる経営層の方もいるのではないでしょうか。今回は、レジリエンスの概要やレジリエンスの高い人の特徴、個人と組織のレジリエンスを向上させる方法についてご紹介します。

レジリエンスとは、逆境から素早く立ち直り、成長する能力

レジリエンス(Resilience)とは、ストレスなど外的な衝撃を受けても、折れることなく立ち直れる「打たれ強さ」のこと。「自発的な治癒力」と呼ばれることもあります。「脆弱性(Vulnerability)」の対義語にあたり、「レジリエンスが高い」ということは、「打たれ強く立ち直りが早い」と言えます。

レジリエンスの概要図


レジリエンスは、心理学の分野で聞かれる言葉

レジリエンスは、もともと「反発性」や「弾力性」という物理学の言葉として用いられていました。しかし、最近では心理学の分野でもたびたび耳にする機会が増えています。

ペンシルベニア大学ポジティブ心理学センターのカレン・ライビッチ博士は、レジリエンスとは「逆境から素早く立ち直り、成長する能力」と定義しました。
 

ビジネスにおいてレジリエンスの向上が注目される理由

ネットが普及した現在、労働環境や顧客のニーズは目まぐるしい速さで変化するようになりました。今後も企業が生き残るためには、変化に柔軟に対応していくことが重要と言えます。

変化の多い現代社会において、逆境に陥った時に素早く回復する能力の有無が問われています。ビジネスシーンでも、レジリエンスを向上させることは、大事だと言えるでしょう。
 

レジリエンスを構成する6つの要素

レジリエンスを構成する要素は、「自己認識」「自制心」「精神的敏速性」「楽観性」「自己効力感」「つながり」の6つです。それぞれの要素について、詳しく見ていきましょう。
 

①:自己認識

自己認識とは、自分の感情や思考、強み・弱みなどを正しく認識すること。逆境に陥った際、「今、何が起きているのか」「何に対して悲しい・辛いと感じているのか」を正しく認識する能力のことを指します。逆境を乗り越える際に自分の強みを意識的に使えるよう、日頃から自分の強みを認識しておくことが重要とされています。
 

②:自制心

自制心とは、出来事に対し、自分の気持ちを把握した後に感情や思考、行動を「律する」「適切に制御する」こと。感情任せに行動するのではなく、その場に応じた適切な行動を取ることを指します。
 

③:精神的敏速性

精神的敏速性とは、物事を多方面から捉え、大局的な観点から対処すること。感情的にならず冷静に判断をすることが重要です。冷静になって原因を探り、適切な解決策を取ることで、迅速な対処につなげる能力と言えます。
 

④:楽観性

楽観性とは、自分には未来を良くすることができるという自信を持つこと。具体的には、「ストレスを脅威とせず、さらに成長するための調整だと捉える」「ストレスの原因に対して、自分がコントロール可能な部分と不可能な部分を区別する」といった能力のことを指します。
 

⑤:自己効力感

自己効力感とは、問題解決を「自分はやればできる」という確信のこと。逆境に直面した時、自己効力感があれば行動に移すことができる能力を指します。自己効力感は、さまざまな方法で向上できるとされています。例えば、「他者の姿を見る代理的経験」「他者による説得」「該当者がリラックスしている時の生理的状態に訴える」などです。
 

⑥:つながり

つながりとは、家族や友人、同僚といった「他者とのつながり」のこと。逆境にぶつかった際に「誰かが支えてくれる」という強い信頼が大切となります。周囲との信頼関係を築き、それを維持していく能力と言えるでしょう。
 

レジリエンスが高い人の特徴

「レジリエンスが高い」と言われる人には、どのような特徴があるのでしょうか。「思考」「習慣」「行動」という3つの側面から、レジリエンスが高い人の特徴を紹介します。
 

思考

レジリエンスが高い人は、言われた言葉に対して「一喜一憂しない」人が多いとされています。気性が穏やかで、最後の結果がわかるまで自身の感情をコントロールできる傾向にあるようです。自尊心や自信を持つ人は、難しいとされる課題に対しても自分なりに意味や意義を見つけられるため、逆境を乗り越えやすいでしょう。

また、前述した「自己効力感」や「楽観性」の思考を持つ人も、レジリエンスが高い傾向にあるでしょう。
 

習慣

ネガティブな事象に対して、「肯定的な言葉を使う」「割り切って考える」「楽観的な考えの人と行動をする」など、ネガティブな連鎖を断ち切るために有効な手段や自己暗示を用いるという特徴があります。

PDCAの「C」を重視するといった、「定期的に振り返る習慣」を身につけている人も多いようです。自己成長のポイントや弱点を見つけることで、レジリエンスが高まると言えるでしょう。
 

行動

高いレジリエンスを発揮できる人は、「つながり」でも述べたように、人に対する強い信頼感を抱いているとされています。そのため、家族や友人、同じ価値観や志を持つ同僚と協力することにありがたみを感じ、信頼関係を築くための気遣いや行動を重視する傾向にあるでしょう。

また、「結果を問わずに事実を受容できる」「結果を受けて柔軟な目標変更ができる」人もレジリエンスが高い傾向にあります。変化に対する適応力が高いと、世の中のさまざまな変化に対応できるため、レジリエンスが高いと言えるでしょう。
 

レジリエンスを向上させる方法

レジリエンスは、仕事でストレスをためやすい傾向の方に限らず、経営層やチームリーダー、顧客ニーズの変化が早い業界など、幅広い分野の人材に必要だと言われています。

レジリエンスは後天的な要素から構成されている部分が多いため、個人の対応次第で向上させることができます。レジリエンスを向上させる方法について見ていきましょう。
 

自身の思考を変える

ポジティブ心理学の第一人者であるイギリスのアングリアラスキン大学大学院のイローナ・ボニウェル博士は、人には思い込みやすい7つのネガティブな思考があると言います。

減点思考: 「私には向いていない」「他の人の方が上手だ」
べき思考: 「これはこうあるべきだ」「これはやるべきことじゃない」
悲観思考: 「どうせ悪いことが起きる」「簡単にうまくいくわけがない」
無力思考: 「私は学歴が低い」「規則があるから無理だ」
自責思考: 「失敗したら自分のせいだ」「失敗したら恥ずかしい」
他責思考: 「私のせいじゃない」「うまくいかないのは他人のせいだ」
無責思考:「私には関係のないことだ」「最初から興味がない」

これらに当てはまる思い込みのパターンを自覚し、自分の思考の癖を認知した上で、その癖をコントロールしていきましょう。
 

他者の影響を受ける

家族や友人、同僚など誰かの援助を受けることを「ソーシャルサポート」と言います。ネガティブな思考に陥っている時や自尊心が傷ついた時には、ソーシャルサポートを受けましょう。自身の話を聞いてもらったり、相手の考えを聞いたりすることで、思考の歪みを発見できる可能性があります。

ポジティブな思考の人との行動や会話により、他者からポジティブな影響を受けることもよいでしょう。
 

過去の体験を再認識する

今まで自分が乗り越えてきた体験を形として明らかにすることで、逆境を乗り越えるヒントにつながるかもしれません。自分が乗り越えてきた逆境を可視化するために、今までの体験を一度グラフにしてみましょう。幸せに感じたことと不幸せに感じたことを折れ線グラフで示します。「幸せだった時の感情」「逆境時の感情」「その時の乗り越え方」も同時に記入することで、自分が乗り越えてきた逆境が形として明らかになるでしょう。

また、そのグラフを基準に「今はこの時より辛くない」と、ポジティブ思考になるきっかけともなり得ます。
 

組織のレジリエンス向上も重要

従業員のレジリエンスを高めることは、組織のレジリエンスを高めることにもつながります。組織レジリエンスが重要な理由と向上させる方法について紹介します。
 

組織レジリエンスが重要な理由

従業員一人ひとりのレジリエンスを高めることによって、企業や組織のレジリエンスにも直結すると言えます。

先述した通り、現代の日本企業には、環境や顧客ニーズに合わせて常に変化して柔軟に対応していくことが求められています。それに加え、昨今、東日本大震災や新型コロナウイルスの流行により、日本企業ではリスクマネジメントが重要視されるようになりました。これまで今まで以上にリスク管理をしているとは言え、今後も想定外の出来事が起こる可能性もあるでしょう。予測困難な状況に対し、変化の波に乗り軌道を修正するためには、レジリエンス力が必要不可欠と言えます。
 

組織レジリエンスを向上させる方法

組織レジリエンスを向上させるには、どのような方法があるのでしょうか。
 

シナリオプランニングを行う

1つ目の手法は、シナリオプランニングです。シナリオプランニングとは、「長期的な視野で物事を見据え、これから起こり得る出来事を複数想定して準備しておく」経営戦略のこと。今後起こるかもしれないシナリオを複数作成し、それぞれへの対応策やリスク対応を決めておきましょう。事前にシナリオプランニングが出来ていれば、突然訪れた危機に対しても柔軟に対応できます。
 

環境への調和を図る

ロイヤル・ダッチ・シェルの幹部であったアリー・デ・グースは企業を機会ではなく、生命であると考え、著書『企業生命力』において、「長寿企業は環境への調和の影響が特徴の1つである」と指摘しています。本書では、「周囲の環境変化と調和する組織は、変化に対しても柔軟な対応力を発揮し、生き残りにつながる」と述べています。短期間で急激な変化を遂げる社会・経済環境の中で、企業が変わらずに最適であり続けることは、困難です。しかし、「周囲の環境への調和」という在り方は、組織レジリエンスの1つとも言えるでしょう。
 

組織のブランド化・独自化を図る

いつまでも愛用される製品やサービスは時代に合ったリニューアルをすることで、環境の変化が起きてもブランドや独自性を維持しながら、その先も求められるものとなります。そのために、他社と差別化できる「ブランド」や「独自性」を見つけましょう。

消費者の価値観やニーズが高度かつ多様になったいま、常に新しい製品やサービスが要求されています。ブランド力や独自性を高めるながら、時代のニーズを適切に把握していくことは、レジリエンスの強い組織と言えるでしょう。
 

チームを主役化する

組織レジリエンスを高めるためには、一つひとつのチームに焦点を当てることも重要です。1つの部署やチームを主役化することで、自ら「考える」「決める」「実行する」という行動につながります。小さなグループに分けてチームごとに力を発揮していくことで、グループ内外の競争意識や個人の責任感が生まれ、組織レジリエンス力が培われるでしょう。
 

無駄な時間を見極める

レジリエンスの高い組織にするためには、「従業員のやる気」を高めることも大切だとされています。現在、有給取得率の低さや長時間労働が社会問題化し、政府では「働き方改革」を促進しています。そのため、無駄や効率の悪さに時間を費やすことを、生産性低下につながると考え、改善を目指す企業もあるでしょう。

一方で、従業員同士の自由なコミュニケーションがストレスの緩和につながり、生産性が向上することもあるでしょう。時間や経費といったデータを見て「無駄だ」と判断するではなく、業務の質と照らし合わせ、無駄な時間とそうではない時間を見極めることが企業には求められます。
 

レジリエンス向上のための研修や本

レジリエンスを向上させるには、どのような研修方法や教材となる本があるのでしょうか。詳しく見てみましょう。
 

研修:ザ・アカデミージャパン 「レジリエンスを鍛える7つの技術」

株式会社ザ・アカデミージャパンでは、レジリエンスの研修によって参加者の営業力強化やプレッシャーに強いリーダーの開発、セルフマネジメント向上が期待できます。

パーソル総合研究所では、株式会社ザ・アカデミージャパンの講師を招き、「しなやかで折れない心」を鍛えるために研修を行っています。3ステップから成り立つ研修を受け、7つの技術を習得しています。レジリエンスとは何かを知るところから始まり、気持ちの切り替え方や強みの活かし方を学んでいきます。

受講者からは、「人に関心を持つことが大切であり、自らレジリエンスを意識したい」といった声が聞かれるなど、周囲にも知らせていきたいと感じた社員もいるようです。
 

研修:株式会社ヒューマン・ブリッジ 「”逆境力”折れない心を育てる科学的な育成方法」

株式会社ヒューマン・ブリッジでは、研修を通して、ストレス耐性の向上やメンタル失調リスクの低減などが得られるとしています。

参加者からは、「ワークが多く実践しながら学べたため、自己理解につながった」という声があり、生活や仕事の中でも取り入れやすいと感じた方もいるそうです。
 

書籍:レジリエンス入門:折れない心のつくり方

「レジリエンスとは何か?」と感じている方など、初めて読む方にもが読みやすい書籍となっています。「レジリエンス」は抽象的な概念として説明されがちですが、本書では事例や実践例をもとに細かく説明されているため、レジリエンスの理解を深めやすいでしょう。
 

書籍:世界のエリートがIQ・学歴よりも重視! 「レジリエンス」の鍛え方

レジリエンスの基本から実践できるトレーニングまで、1冊でわかる書籍です。一見、学歴や経歴からはわからない精神的な打たれ強さや感情のコントロールといった自己規律についてを「レジリエンス」という観点から紹介しています。

生活やビジネスの中などさまざまな場面で役立つ内容となっているため、グローバルに活躍したい方に限らず、レジリエンスに興味がある方は読み進めやすいかもしれません。
 

組織存続のためにレジリエンスを高めよう

ストレスや外的損傷などの逆境に負けない「打たれ強さ」であるレジリエンスは、後天的要素から構成されているため、今から伸ばしていくことが可能です。従業員にレジリエンスが足りないと感じる場合には、「思考の変換」「過去体験の再認識」といった方法で高めていくと良いでしょう。
また、組織のレジリエンスを高める方法としては、「シナリオプランニング」「組織のブランド化・独自化」「チームの主役化」などが挙げられます。組織を存続させるため、レジリエンスの向上を図ってみてはいかがでしょうか。

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