生産性向上のために企業ができる9個の取り組み、成功事例

お役立ち記事 2020.06.22
生産性向上のために企業ができる9個の取り組み、成功事例


生産性(投入した経営資源に対する生み出した成果の割合)を高めていくことを意味する「生産性向上」。労働人口の減少や国際競争の激化といったことを背景に、生産性向上を図る企業が増えてきています。
 
とは言え、「売上に対する人件費の割合が高い」「人件費を抑えつつ、成果を上げていくのが難しい」といった悩みを抱えている管理職や経営者の方も多いのではないのでしょうか。今回は、生産性向上の概要や企業にとってのメリット、生産性を向上させるための取り組みや注意点などを、成功事例を交えながら紹介します。

生産性向上とは

「生産性向上」とは、企業が投入した経営資源に対し、従業員がどのくらいの成果を生み出したかの割合である「生産性」を高めていくことです。投入した資源に対し、生み出された成果の割合が大きければ大きいほど「生産性が高い」と判断できます。つまり、生産性向上とは、より少ない「input」でより大きな「output」を生み出すことだと理解すると良いでしょう。
 
生産性の種類と生産性を測る際の指標、世界と比較した日本の労働生産性、業務効率化との違いについて紹介します。
 

生産性の種類と生産性を測る際の指標

「企業が投入した経営資源に対し、どれだけの成果を生み出せたか」の割合である生産性は、「労働生産性」「資本生産性」「全要素生産性」の3つに分けられます。
 
生産性の種類

生産性の種類 何に着目した生産性か 成果となるもの
労働生産性「労働」という観点から見た生産性「売上」「製品」など
資本生産性「資本」という観点から見た生産性「設備投資」を初めとする固定資産
全要素生産性「投入した生産要素全て」から見た生産性上記2つの成果を足したもの

 この3つの内、企業における生産性を測る指標として一般的に用いられているのは、「労働生産性」です。労働生産性は、以下の計算式で算出することができます。

労働生産性の計算式

付加価値額とは、「売上高」から、原材料費や外注費といった「外部費用」を除いた金額のことです。また労働投入量は、「労働者数」に「労働時間」を掛けたものを指します。
 

世界と比較した日本の労働生産性

「より短い時間でより効率的に仕事を行う」ことが重視されるようになってきた近年、「1時間につき、どのくらいの付加価値を生み出したか」の指標である「時間当たり労働生産性」に注目が集まっています。世界と比較した場合、日本の時間当たり労働生産性はどの程度の水準にあるのでしょうか。
 
公益財団法人日本生産性本部が発表した『労働生産性の国際比較2019』によると、日本の時間当たり労働生産性は46.8ドルでした。OECD36各国中では、第21位となっています。日本の時間当たり労働生産性はOECD平均の56.1ドルを10ドル近く下回っており、上位のアイルランド(102.3ドル)やルクセンブルク(101.9ドル)と比較すると半分以下です。

OECD加盟諸国の時間当たり労働生産性(2018年/36ヵ国比較)
(参考:公益財団法人日本生産性本部『労働生産性の国際比較2019』p8の図を元に作成)

また、主要先進7カ国の時間当たり労働生産性の順位の変遷を見ると、日本はデータが残っている1970年以降、一貫して最下位の状況が続いていることが分かります。

主要先進国7ヵ国の時間当たり労働生産性の順位の変換
(参考:公益財団法人日本生産性本部『労働生産性の国際比較2019』p9)

これらの結果から、「世界的に見て、日本の労働生産性は低い」という状況が、数十年単位で続いていることが伺えます。
 

生産性向上と業務効率化の違い

「生産性向上」と混同されがちなのが、「業務効率化」です。業務効率化とは、業務の「ムリ・ムダ・ムラ」をなくして、業務をより効率的に進められるようにすること。生産性向上も業務効率化も、企業の業績を改善するための方法の1つという意味では同じですが、目的が異なります
 
生産性向上が目指しているのは、時間・コストの削減や事業の再構築・新規創出などにより、より少ない労力でより高い成果を生み出すことです。一方、業務効率化は、業務の「ムリ・ムダ・ムラ」を省き、時間やコストを短縮することを目的としています。業務効率化は、生産性向上という企業にとっての大きな「目的」を達成する「手段」の1つだと覚えておくと良いでしょう。



生産性向上が企業にもたらすメリット

生産性が向上することで、どのような効果が期待できるのでしょうか。生産性向上が企業にもたらすメリットを紹介します。
 

国際的な競争力の向上

近年、AIやIoTといった技術革新により、国際競争は激化していると言われています。そうした中、公益財団法人日本生産性本部が発表した『労働生産性の国際比較2019』によると、日本の国民1人当たりGDP国内総生産は42,823ドルで、OECD36カ国中18位。OECD平均の45,760ドルを下回っています。

OECD加盟諸国の1人当たりGDP(2018年/36ヵ国比較)
(参考:公益財団法人日本生産性本部『労働生産性の国際比較2019』p1の図を元に作成)

また主要先進7カ国の国民1人当たりGDPの順位の変遷によると、日本はここ20年ほど下位に位置し続けています。

主要先進7ヵ国の国民1人当たりGDPの順位の変換
(参考:公益財団法人日本生産性本部『労働生産性の国際比較2019』p2)

これらの結果から日本の国際競争力はさほど高い水準にはないことが伺えますが、その原因の1つとして、先ほど指摘した労働生産性の低さが挙げられます。そのため、生産性が向上すれば「より少ない労働投入量で、より大きな成果を出せる」ようになり、国際競争力の向上が期待できるでしょう。
 

人材不足の改善

日本では、少子高齢化に伴う労働人口の減少が深刻な社会問題となっています。それにより、慢性的な人材不足に陥っている企業も少なくないでしょう。少子高齢化の動きが今後さらに加速していけば、企業の人材不足はより深刻化する可能性があります。
 
人材不足に悩む企業にとって、切り札となるのが生産性向上です。生産性が向上すれば「少ない人数でも成果を上げ続けていく」ことができるため、「より少ない人数でも経営を続けられる」ようになり、結果として人材不足の改善につながっていきます。
 

長時間労働の是正

国際競争力の低さや慢性的な人材不足と同様に、日本で問題となっているのが長時間労働です。長時間労働は心身に悪影響をもたらし、最悪の場合には過労死にもつながりかねません。
 
しかし、生産性が向上すれば「より少ない時間で、これまで以上の成果を出す」ことも可能になるため、長時間労働が是正されます。また、「残業時間の短縮による残業代の削減」や「時間に余裕が生まれることによる新しいアイデア・イノベーションの創出」なども期待できるでしょう。
 

企業ができる生産性向上のための9個の取り組み

企業にとって、さまざまなメリットがある生産性向上。では、実際に生産性を向上させていくためにはどのような取り組みを行う必要があるのでしょうか。
 
生産性向上に向けたアプローチの方法は、「同じ労働投入量で、より多くの付加価値を生む出す」または「より少ない労働投入量で、これまでと同じくらいの付加価値を生み出す」のいずれかです。どちらのアプローチにするかによって、生産性向上のために企業としてできることが変わってくるため、まずは「どちらのアプローチで進めていくか」を検討することが重要とされています。
 
どうアプローチしていくかが決まったら、次に具体的な取り組みを考えましょう。生産性向上のため企業としてできる取り組みとしては、以下の9個があります。
 
生産性向上のための9個の取り組み

①業務の見える化
②業務の標準化
③タイムマネジメントの可視化
④従業員のスキルアップ
⑤アウトソーシングの活用
⑥ITツールの導入
⑦働きやすい環境・制度の整備
⑧心理的安全性の担保
⑨適切な人材配置


取り組み①:業務の見える化

生産性向上に向けた取り組みを行う際には、現状の業務内容や業務フローについて、事前に知っておくことが重要です。そのため、まずは一人ひとりが担当している業務を可視化する業務の見える化をしましょう。「重要度」と「緊急度」の高低により、業務を4つに区分するのがポイントです。それにより、優先順位が明確になったり、省くことができる業務が見つかったりするため、本来やるべき業務に集中しやすくなるでしょう。
 

取り組み②:業務の標準化

業務の見える化と共に行いたのが、新人・ベテランなど習熟度に関係なく誰でも同じ作業ができるようにする業務の標準化です。業務の標準化のためには、フローチャートや画面キャプチャなどを入れたマニュアルの作成が欠かせません。マニュアルを作り業務を標準化することで、「業務の属人化を防げる」「ミスを減らせる」「質を担保しやすくなる」といった効果が期待できます。
 

取り組み③:タイムマネジメントの可視化

生産性を向上させるには、「この作業は12時までに終える」「金曜日の会議の資料作成は、水曜日までに終える」といったように、「いつまでに何をするか」を明確にすることも重要です。日ごと・週ごとの業務を洗い出し、それぞれの業務の目標時間を設定しましょう。タイムマネジメントを可視化することにより、「業務の抜け漏れ」や「長時間の残業」を防ぐ効果が期待できます。
 

取り組み④:従業員のスキルアップ

生産性向上のためには、従業員一人ひとりのスキルを高めていくことも重要です。従業員任せにするのではなく、企業として勉強会や研修などを積極的に開催していくと良いでしょう。従業員に習得してもらいたいスキルとしては、ブラインドタッチやショートカットキーの活用といったパソコンスキル、チームメンバーと協力して仕事を進めていくために必要なコミュニケーションスキル、専門性や難易度の高い業務を担うのに必要な専門的スキル、心身を良い状態に保つためのセルフマネジメントスキルなどが挙げられます。
 

取り組み⑤:アウトソーシングの活用

生産性を向上させる際には、「社外の力を借りる」という方法もあります。そのためには、まず社内の業務を、利益に直結する「コア業務」と、コア業務をサポートする役割を担う「ノンコア業務」に選別します。その上で、ノンコア業務についてはアウトソーシングの活用を検討すると良いでしょう。ノンコア業務をアウトソーシングすることにより、従業員はコア業務に集中できるようになります。


取り組み⑥:ITツールの導入

近年、業務を効率的にするさまざまなツールが登場しています。「全て手作業でやっている業務」や「複数のソフトウェアを使って行う業務」などにITツールを導入することにより、作業時間を大幅に短縮できます。ITツールの例としては、勤怠管理や生産管理ができる業務管理システム、メッセージ送信にかかる時間を短縮するチャットツール、情報共有や従業員同士のコミュニケーションを円滑にするグループウエア、定型的な業務を自動化するRPAなどが挙げられます。
 

取り組み⑦:働きやすい環境・制度の整備

生産性は、従業員のモチベーションやエンゲージメントによっても左右されます。従業員のモチベーションやエンゲージメントを高めるため、働きやすい環境・制度を整備しましょう。働きやすい環境作りとしては、固定席を設けず業務の状況によって自由に席を移動できるフリーアドレスの導入の他、会議の時間短縮・オンライン化、ペーパーレス化といった方法が挙げられます。また、自宅やコワーキングスペースといった社外からオンライン上で業務を行うリモートワークや、日ごとの労働時間を従業員が自由に調整できるフレックスタイム制といった制度の導入も併せて検討しましょう。


取り組み⑧:心理的安全性の担保

生産性を高めていくためには、「従業員一人ひとりが安心して自由に発言・行動できる状態」である心理的安全性を担保していくことも重要とされています。心理的安全性が担保されれば、従業員同士が連携・協力しながら業務に取り組めるようになり、業務の質・スピードが向上するでしょう。心理的安全性を担保する方法としては、上司と部下の1対1での面談である1on1ミーティングの導入、「メンター制度」「ブラザーシスター制度」などの活用による新メンバーへのフォローなどが挙げられます。


取り組み⑨:適切な人材配置

生産性は、従業員一人ひとりが「自分の能力を発揮することができているか」によっても左右されます。アンケートやヒアリングなどにより従業員一人ひとりの能力・希望を把握した上で、それを最大限活かせるよう、適切な人材配置を行いましょう。
 

生産性を向上させた企業の成功事例

実際に、生産性向上に成功した企業の事例を紹介します。
 

株式会社コスモジャパン

北海道で食品製造業を営んでいる株式会社コスモジャパンは、生産性を向上させるため、新しい機械の導入や作業手順の見直し、ノンコア業務のアウトソーシングといった取り組みを行いました。これらの取り組みにより、一人当たりの月の残業時間が40時間から10時間へと大幅に短縮。スキルアップのための勉強時間を就業時間内に確保できるようになり、生産性やモチベーションの向上につながったようです。
 

スパイスファクトリー株式会社

デジタル・インテグレーション事業を展開しているスパイスファクトリー株式会社では、生産性向上のために、外部パートナーへのノンコア業務の委託や各種ITツールの活用を行っています。一方で、質の良いデスクや椅子を導入したり、従業員がリラックスできるようコーヒーマシンやダーツを用意したりと、従業員のモチベーションやパフォーマンスを向上させることにも積極的なようです。
 

株式会社はたらクリエイト

長野県上田市でリモートチームサービス「banso.(旧hatakuri.)」を展開する株式会社はたらクリエイトでは、生産性の向上のため、チャットツールやグループウェアを始めとするITツールの活用、在宅勤務やフレックスタイム制の導入による働きやすい環境作りなどさまざまな取り組みを行っています。また、先輩スタッフが新人スタッフを3ヵ月間フォローする「シスター制度」を導入したり、各種研修を積極的に行ったりすることで、心理的安全性や個々のスキルを高めることにもつながっています。



生産性向上に取り組む際の注意点

生産性向上に取り組む際には、いくつか注意すべきことがあります。生産性向上の注意点を紹介します。
 

経営陣だけで一方的に進めない

成果を求めるあまり、つい「経営陣だけで施策を考える」「従業員の意見を聞かずに、取り組みを始めてしまう」など、経営陣が一方的に生産性向上を進めてしまうこともあるかもしれません。しかし、現場の状況を把握しないまま生産性向上に取り組んでも、思うように結果が出ない可能性があります。また仮に生産性が向上したとしても、従業員のモチベーション低下を招きかねません。
 
生産性向上に取り組む際には、現場の声に耳を傾け、経営陣だけで一方的に進めないようにしましょう。従業員の意見を聞きながらさまざまな取り組みを行うことで、従業員は当事者意識を持つようになり、生産性のさらなる向上が期待できます。
 

マルチタスクをできるだけ避ける

生産性を高めるべく、「従業員にさまざまな業務をお願いする」ことも時にはあるでしょう。しかし、マルチタスクを続けていると、「ストレスがたまる」「疲れを感じやすくなる」など良くない影響がもたらされる可能性があります。
 
そのため、マルチタスクはできるだけ避けるようにしましょう。やむを得ずマルチタスクになる場合には、「午前中は●●業務をする時間」「▲▲業務は昼休憩後に行う」などと明確に決め、同じ時間帯に複数の作業を行うことがないようにすると、業務を円滑に進められそうです。
 

すぐには結果が出ないこともあると理解する

生産性向上は、一朝一夕にできるものではありません。生産性向上を進める際には、業務マニュアルを新たに作成したり、ITツールを導入したりと、ある程度の手間・時間がかかることも多くあります。「すぐには結果が出ないこともある」と理解した上で、定期的に状況を確認しつつ、生産性向上に向けた取り組みを根気強く続けていきましょう。
 

生産性向上に関わる助成金や補助金の紹介

生産性向上に取り組む際には一定の費用がかかることもあるため、助成金や補助金を活用すると良いでしょう。生産性向上に関わる助成金・補助金をいくつか紹介します。
 

業務改善助成金

業務改善助成金とは、中小企業・小規模事業者の生産性向上を支援し、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)の引上げを図るための助成金です。 機械設備やPOSシステム等の導入など生産性向上のための設備投資を行い、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた場合、設備投資などにかかった費用の一部が助成されます。

(参考:厚生労働省『|[2]業務改善助成金:中小企業・小規模事業者の生産性向上のための取組を支援』)
 

人材確保等支援助成金

人材確保等支援助成金とは、従業員の職場定着の促進を図ることを主な目的に、雇用管理の改善や生産性向上といった取組みを行った企業に対して支給する助成金です。人材確保等支援助成金は全6コースありますが、その内「人事評価改善等助成コース」「設備改善等支援コース」の2コースが生産性向上と関連が強いものとなっています。

(参考:厚生労働省:『人材確保等支援助成金のご案内』)
 

IT導入補助金

IT導入補助金とは、中小企業や小規模事業者が自社の課題やニーズに合ったITツールを導入する際にかかる経費の一部を補助することにより、業務効率化・生産性向上を支援していくための補助金です。ソフトウエアの購入費や、ITツールの導入に伴いかかった関連費用などの一部が補助されます。

(参考:IT導入補助金2020
 
生産性向上に関わる助成金としては、この他に、仕事と家庭の両立や女性の活躍推進などの取り組みを行った企業に対して支給される「両立支援助成金」や、従業員が業務に関連した専門性の高い教育訓練を受けるのを支援している企業に対して支給される「人材開発支援助成金」などがあります。受給要件や受給金額は助成金・補助金によって異なるため、情報を収集した上で、自社に合った助成金・補助金を活用すると良いでしょう。
 

さまざまな取り組みを行い、生産性向上を実現しよう

生産性が向上すれば「より少ない労力でより高い成果を生み出す」ことができるため、「人材不足の解消」や「長時間労働の是正」などが期待できます。生産性向上は一朝一夕に実現できるものではないため、現場で働く従業員の声を聞きながら、根気強く取り組み続けましょう。
 
「業務の見える化」や「アウトソーシングの活用」「ITツールの導入」などさまざまな取り組みを行うことにより、生産性向上を図ってみてはいかがでしょうか。

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