人事評価制度を導入するポイントとは。成功している方法や廃止した企業事例

お役立ち記事 2020.08.17
人事評価制度を導入するポイントとは


従業員の企業への貢献度をもとに評価を行う「人事評価制度」。「自社で既に取り入れている人事評価制度が本当に適切なのか」「他に何か良いい方法はあるのか」と感じている経営者やマネージャーの方もいるのではないでしょうか。今回は、人事評価制度の概要や目的、手法、メリット・デメリット、導入するポイントなどを、成功・廃止した企業事例を交えながら紹介します。

人事評価制度とは

人事評価制度とは、業績や能力、職務に対する姿勢といった貢献度をもとに、従業員を評価する制度です。四半期や半年、一年など一定期間ごとに評価を行われるのが一般的で、評価基準は企業によって異なります。
また人事評価制度は、「評価制度」「等級制度」「報酬制度」の3つの要素で成り立っています。詳しく見てみましょう。

【評価制度】企業が求める評価の項目や基準

評価制度とは、従業員が目標達成に向けて、どのように行動するか基準を示す制度のこと。その評価に応じて、等級や報酬を決定する仕組みです。評価項目や評価基準は等級ごとに変化します。

【等級制度】従業員を序列化する基準

等級制度とは、能力や役割、スキル、業績などによって社員を序列化する制度のこと。この等級をもとに、従業員に「報酬」「権限」「責任」をどのように配分するかを決定します。これによって自身の役割や役職が変動するため、組織マネジメントや企業の雰囲気に大きな影響を与えると言えるでしょう。

【報酬制度】従業員の給与や賞与を定める基準

報酬制度は、評価制度と等級制度に基づき、仕事の成果や役割、地位に対応した給料を定める制度のこと。等級ごとに定められた金額の範囲限内で、給与や賞与を決定するのが一般的です。また、報酬制度の一環として、福利厚生や退職金などを定める場合もあります。


人事評価制度を導入する目的

人事評価制度は、なぜ企業において必要となるのでしょうか。導入する目的を詳しく見てみましょう。

人材育成

人事評価制度を導入することによって、上司は部下の現状や得手不得手を客観的に把握することができます。そのため、今後の担当業務を割り振る際や、教育の方向性を定める際のヒントとなります。人事評価制度は、従業員の目標達成を推進する役割もあるので、従業員の成長にもつながるでしょう。

適材適所での人事配置

従業員の得手不得手を理解することは、人事配置を考える上でも役立ちます。適材適所の人材配置をすることにより、業務の効率化や業績アップも期待できます。また、人事評価制度によって、従業員の成績や適性に合った人事配置が可能になるため、上司・部下がともに異動に納得しやすくなるでしょう。

評価者の可視化

人事制度評価の導入や運用には、公平性や適正性が必要となります。評価項目を可視化することで評価の根拠が伝えられるため、従業員の納得感が高まります。また、評価に透明性があることで、従業員による企業へのエンゲージメントや従業員のモチベーションも向上するでしょう。


人事評価制度の変遷

これまで多くの企業では、企業が正規雇用従業員を定年まで雇用する「終身雇用制度」が採用されており、人事評価制度も、年齢や勤続年数に比例して給料が上がる「年功序列」が一般的でした。

しかし、近年では景気の低迷や雇用情勢の変化、働き方の多様化により、今までの雇用システムの維持が難しくなってきました。それに伴い、従来の人事評価制度を見直し、仕事の結果や業績、貢献度、プロセスなどで評価する「成果主義」、「能力主義」に基づく人事評価制度に変更した企業もあります。人事評価制度は、時代に合わせたものへと変わってきていると言えるでしょう。

2016年の働き方改革により、正社員と非正規社員との賃金格差を統一する「同一労働同一賃金」が出され、政府の方針も「仕事の内容が同じ、または同等の社員に対して、同じ賃金を支払う」という成果主義に傾く傾向がみられました。

近年の欧米では、期間を区切った人事評価やランク付けを廃止する「ノーレイティング」の動きが注目されています。現在の働き方や現場の動きに合わないことから、期間を設定せずに必要なときに目標設定・評価・フィードバックするなど、各企業に合った評価の仕方に変化してきています。


人事評価制度の手法

人事評価制度では、個人のスキルや会社の業績、勤務態度などをもとに評価を行います。従業員の意欲向上にもつながる人事評価制度の手法を3つ紹介します。

コンピテンシー

コンピテンシー評価とは、コンピテンシーに基づいた客観的な評価のことを指します。従業員の基本的な素質に限らず、実際の行動がどのような結果につながったのか、業績の高い人材の思考や行動などの「行動特性」を判断する手法です。「コンピテンシーの定義やモデル開発に時間を要する」「評価基準を環境変化に対応させるのが難しい」といった課題もありますが、評価側の基準が明確になるため、客観的な分析や公正な評価をすることができ、相性や男女差によるムラをなくすことができるでしょう。


目標管理(MBO)

目標管理(MBO)とは、従業員自らが設定した目標の達成度によって評価するという手法です。「設定した目標によっては妥当性や適性がわかりづらい」「管理外の目標に対して意欲が向きづらい」といった課題もありますが、従業員の自己管理能力や目標達成力などの育成が期待できます。また、企業目標に対する個人の貢献度合いがわかりやすいため、上司側がマネジメントしやすくなると言えるでしょう。

360度評価

360度評価とは、対象者と一緒に仕事をする複数のメンバーが評価をする手法のことです。これまで上司のみで行ってきた人事評価を、上司や同僚、部下といったあらゆる視点から多角的に評価することで、評価の公正性を補うことを目的としています。評価の方法によっては、職場の雰囲気や人間関係が悪化したり、従業員同士が互いを良い評価にし合ったりしてしまう可能性があります。そのため、評価結果を報酬に直結させるためではなく、「本人に評価を伝えることで業務に活かしてもらう」ために導入するのが一般的です。


人事評価制度のメリット

人事評価制度を導入することで、企業や従業員にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

モチベーションや生産性の向上

人事評価制度を導入することにより、業務の成果に応じた給与や待遇の改善が見込めます。そのため、従業員のモチベーションアップにつながると言えるでしょう。また、「自身の頑張りが評価につながる」ため、自発的な業務改善や生産性の向上も期待できます。

企業と従業員の信頼関係の向上

人事評価制度により、具体的な「評価基準」と「昇給や昇進の可能性」を明示することで、従業員は「自分に何が求められているか」を知ることができます。また、適切なフィードバックは、「自分の業務を見てもらえている」という従業員の安心感や帰属意識につながり、信頼関係の向上を図れるでしょう。

今後の人材開発への活用

人事評価制度の導入により、従業員一人ひとりのスキルを客観的に把握することができます。また、各従業員の課題や不足しているスキルなども明確になるでしょう。それらをもとに、研修プログラムの策定やスキルアップ制度の検討などをすることで、今後の人事開発に役立てることができます。


人事評価制度のデメリット

さまざまなメリットのある人事評価制度ですが、運用の仕方や企業によっては、問題を引き起こす可能性もあります。人事評価制度のデメリットについて、まとめてみました。

従業員のモチベーション低下

モチベーションや生産性の向上につながるとされている人事評価ですが、運用方法に問題があると十分な効果が得られないこともあります。評価基準の曖昧さやフィードバックの不十分さが従業員の不満や不信感を招き、転職を考えるきっかけにもなり得ます。「評価基準の明確化」や「日々の運用の徹底」を意識することで、従業員のモチベーション低下を防ぎましょう。

待遇への不平・不満が生まれる

人事評価制度では、評価の結果で給与・役職などが決定します。しかし、場合によっては、評価制度やその後の処遇に対して従業員が「不適切だ」「納得がいかない」と感じることもあるでしょう。最悪の場合、訴訟に発展する可能性もあります。従業員が納得できるよう、明確な評価基準を設定したり、評価結果と処遇がどう連携するかを従業員に伝えたりすると良いでしょう。

制度が適さない

人事評価制度では、従業員一人ひとりのパフォーマンスをもとに評価を行います。そのため、チーム一丸となって、サービスを提供したり、一定の品質を保持したりすることが求められる企業・職種には、個人を評価する人事制度が適さない可能性があります。自社で人事評価制度を導入するには、「どのような評価基準にすると良いか」「どういった評価制度を取り入れるべきか」などを事前に検討しましょう。


人事評価制度を運用するポイント

人事評価制度を円滑に運用するためには、運用のポイントを理解しておくことが重要です。人事評価制度を運用する際のポイントを紹介します。

運用の明確化

評価項目や基準が曖昧なままだと、従業員がどのように目標設定するとよいかや、どのような行動が評価へとつながるのかがわからないために、人事評価そのものや企業への信用性が損なわれてしまうことがあります。評価について従業員が納得できるよう、評価基準を明確し、従業員に共有する必要があります。項目や方法、時期などをわかりやすく伝えましょう。

評価の信用性

従業員の不平不満が生まれないよう、「客観的」「具体的」に評価することが重要です。従業員が納得して業務に取り組めるよう、「評価に対する理由」を明示するようにしましょう。

また、評価する際、従業員同士を比較する「相対評価」ではなく、一人ひとりの目標達成状況に基づく「絶対評価」を行うことにより、評価に対する説得性・納得性が増し、従業員との信頼関係が深まることも期待できます。

プロセスの加味

結果だけではなく、プロセスにも注目して評価を行いましょう。プロセスを加味することで、従業員の日頃の業務における頑張りを見てもらえていると実感しやすくなります。そのため、従業員の企業への貢献度も高まるでしょう。


人事評価制度の運用に成功している企業事例

人事評価制度にはさまざまな種類があるため、どの制度を導入するかは企業によって異なります。運用に成功している企業では、どのような工夫をした上で、人事評価制度を運用しているのでしょうか。人事評価制度の運用に成功している企業の事例を紹介します。

株式会社サイバーエージェント

AmebaやAbemaTVで知られる株式会社サイバーエージェントでは、従業員数の拡大に伴い、「採用→育成→適材適所→定点観測→才能開花」と一気通貫した管理を行っています。デジタルに取得できるデータと、個別に聞いたアナログなデータを掛け合わせることによって、従業員のコンディションからキャリア志向、興味分野を把握し、定着率の向上や適材適所、才能開花といった業績貢献へつながることを目指しています。

株式会社フロムスクラッチ

株式会社フロムスクラッチでは、「会社の成長や市況の変化に合わせた制度を」と考え、従業員全員が採用を行うためのリクルーティング資格制度として「CREW」を導入しました。組織の拡大を見据え、企業への理解度やどのような人材の採用かをもとに、従業員を採用への貢献度に応じて4段階に格付けする仕組みです。半年に一度行われるテストでは文化や考えを繰り返し伝えます。これを浸透させることで、一緒に働きたい人を見つける”組織・採用が優先”の「フロムスクラッチの採用文化」や、それが未来の会社を作っていくという自覚につながっていくと言います。


自社の人事評価制度が合っていないと感じたら

人事評価制度を運用する中で、「従業員の納得や評判が得られていない」と感じることがあるかもしれません。その場合、まずは従業員が「何に不満を感じているか」や「どのような評価を求めているか」を理解する必要があります。実際に現場の声を聞いて、現行の人事評価制度と従業員が求めている人事評価制度を比較してみましょう。

その結果を踏まえ、「自社に合った人事評価制度を取り入れる」「現行の人事評価制度の一部を見直す」といった方法を検討します。従来とは全く異なるやり方を模索してみるのも良いかもしれません。


人事評価制度を廃止した企業事例

企業の中には、「人材に点数やランクを付ける」といった従来の人事評価を廃止したところもあるようです。人事評価制度を廃止した企業の事例を紹介します。

日本マイクロソフト株式会社

日本マイクロソフト株式会社では、期初に設定した目標達成率や売上など、個人業績に対する評価が基準となっていました。評価制度が変わるきっかけとなったのは、組織の経営方針やビジネスモデルの変革のようです。これまでと替わり、チームを組んでサービスの提案をすることになったため、これまでの評価制度では難しい判断し、「コミットメントベース」から、どれだけ会社や部門、チームにインパクトを与えたかという「インパクトベース」での評価に変化しました。これにより、自社のチームワークを活性化させる「働き方改革」になったと言います。

アドビシステムズ株式会社

アドビシステムズ株式会社では、年間目標の達成状況によって評価を行う仕組みを導入していました。しかし、評価時にマネージャーにかかる多大な負担や従業員のモチベーション低下や離職率の増加が課題となっていました。そこで新たに、継続的かつリアルタイムで形式にとらわれないフィードバックの仕組みを持つ「チェックイン」という人事制度を導入しました。「従業員一人ひとりのパフォーマンスを最大化すること」を目指し、評価制度導入後は、従業員の満足度や離職率は改善されたと言います。


自社に合った評価制度を取り入れ、従業員を適切に評価しよう

人事評価制度は、モチベーションや生産性、信頼関係の向上につながるというメリットがある一方で、運用方法や企業によっては適切な評価がしにくいといった課題もあります。人事評価制度を新たに導入したり、現行の人事評価制度を見直したりする際は、従業員の声を参考に、自社に適した人事評価制度を検討すると良いでしょう。自社に合った人事評価制度を取り入れることにより、従業員一人ひとりに対する適切な評価の実施につなげてみてはいかがでしょうか。

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