組織開発とは?人材開発との違いや手法、企業事例を紹介

「組織を強固かつ健全にする取り組み」を意味する、組織開発。組織開発を行うことによって、組織が効果的に機能するようになり、従業員のモチベーションや生産性の向上につながるとされています。
とは言え、「組織開発という言葉は聞いたことがあるけれど、詳しいことは分からない」「組織開発として具体的に何を行えば良いのか分からない」といった人材育成担当者やマネージャーの方も多いのではないでしょうか。今回は、組織開発の概要や目的、人材開発との違い、実践するための手法、おすすめの本やセミナーについて、企業事例を交えながら紹介します。
組織開発とは、組織を強固かつ健全にする取り組みのこと
終身雇用の崩壊や雇用の流動化といった働き方の変化を受け、近年注目されているのが「組織開発」です。組織開発とは、一体どのようなものなのでしょうか。組織開発の概要や注目される背景について、紹介します。
組織開発とは
組織開発(Organization Development)とは、組織を強固かつ健全にする取り組みのこと。組織で働く「人」と「人」との関係性に着目した、「組織を取り巻く環境の変化に対応するための方法」や「組織としてのパフォーマンスを向上させるための取り組み」「従業員の主体性を引き出し、組織を変化させていくための取り組み」などと言い換えることもできます。
通常、組織を変革しようとする場合には、経営者や経営陣が主体となるのが一般的でしょう。しかし組織開発では、組織に所属するメンバー一人ひとりが変革の主体となります。
組織開発が注目される背景
組織開発は、1950年代終盤にアメリカで生まれた考え方です。その後欧米を中心に発展してきました。
日本でも注目されるようになった背景としては、終身雇用の崩壊や年功序列の廃止、雇用の流動化といった働き方の変化が挙げられます。従来の日本企業は、終身雇用や年功序列を前提としており、一度入社した会社で定年まで働くのが一般的だったため、従業員の同質性が高く、価値観のずれが生じにくい状況にありました。
しかし、雇用の流動化や成果主義の導入により、「新卒採用社員と中途採用社員」「年下の上司と年上の部下」「日本人と外国人」といったように組織に属するメンバーが多様化。それと共に、「従業員の同質性の低下」「価値観のずれ」といった課題が生じました。そうした課題を解決するための方法として注目されるようになったのが、組織に属する「人」と「人」との関係性に着目しながら組織全体の変革に取り組む「組織開発」です。
組織開発の目的は、環境に合わせて変化し、健全かつ効果的に機能する組織にすること
組織開発とは何を目的としたもので、その実現のために人事担当者・人材育成担当者に求められるのはどのようなことなのでしょうか。組織開発の目的と、組織開発を行う際の人事・人材育成担当者の役割を紹介します。
組織開発の目的とは
組織開発の目的は、環境に適合しながら変化し、健全かつ効果的に機能する組織を作っていくことです。また広義の意味では、集団のシナジー効果が高まるような組織を作り、従業員一人ひとりのモチベーションを高め、生産性向上につなげていくこととされています。
組織開発を行う際の人事・人材育成担当者の役割
人材不足や働き方の多様化により、「複数のプロジェクトを兼務している従業員が多い」「自宅やコワーキングスペーススペースでテレワークしている従業員が多い」といった企業もあるでしょう。そうした企業では、コミュニケーション不足による意見の相違やコミュニケーションエラーによる認識のずれが起きやすいとされています。当事者だけでこうした課題を解決しようと思っても、当事者だからこそ問題の本質に気付くのが難しく、解決に至らないこともあるでしょう。そのため、第三者の客観的な分析や働きかけによる組織開発が必要とされています。
組織開発の視点で考えると、組織の課題を解決するために第三者として働きかけを行うことが、人事担当者や人材育成担当者の役割です。人事担当者がこれまで行ってきたのは、「従業員を研修に招き、そこでトレーニングを行う」という、従業員に人事側の領域に来てもらうというアプローチが主流でした。しかし、組織開発を行う際には、「実際の業務の現場に足を運ぶ」「チーム・組織の会議に積極的に参加する」といったように、人事担当者が自らが行動を起こし、存在感を示しながら、組織に変化をもたらすことが求められます。
組織開発と人材開発の違い
「組織開発」と混同されることが多いのが「人材開発」です。人材開発とは、研修やキャリア開発、OJTなどにより、人材のスキルやパフォーマンスを向上させること。組織開発と人材開発はどちらも組織の抱える課題を解決するための有効な手段の1つという点では同じですが、管理する対象や課題の原因の捉え方、課題解決に向けたアプローチの仕方が異なります。組織開発と人材開発の違いを表にまとめました。
組織開発 | 人材開発 | |
管理する対象 | ●「人」と「人」との関係性 ●「グループの中」「グループ間」の関係性 | ●「人」そのもの |
課題の原因の捉え方 | 「人」と「人」との関係性や、「グループの中」「グループ間」の関係性に原因があると考える | 従業員のスキルや知識に原因があると考える |
課題解決に向けたアプローチの仕方 | ミーティングやワークショップの場を設け、関係性の改善を図る | 個人を対象に研修や指導を行い、従業員のスキル向上を図る |
人材開発では「人」そのものに焦点を当てているのに対して、組織開発では「関係性」に焦点を当てているというのが、一番の違いです。組織開発と人材開発とでは、組織開発の方がより広い視点で、組織の課題の原因を捉えていると理解すると良いでしょう。そのため、「若手社員の早期戦力化」「部下に対する上司のマネジメントの強化」といった組織の課題に対するアプローチの仕方も、組織開発と人材開発とでは異なります。

組織開発を実践する手法と6つのステップ
組織開発を実践する際の具体的な手法としては、以下の4つが挙げられます。
組織開発の具体的な手法
●コーチング:「課題の解決策は、その人の中にある」というスタンスのもと、「相手の話を傾聴する」「相手の様子を観察する」「相手の内面にある解決策を引き出す提案をする」といった手法。内面の変化を促すことを目的としている。 ●フューチャーサーチ:「過去」「現在」「未来」という時系列を意識しながら、参加者が意見を出し合い、将来のビジョン実現に向けた具体的なアクションプランを考える手法。多様な視点での議論の実施を目的としている。 ●ワールドカフェ:カフェのようにゆったりした雰囲気の中で、従業員一人ひとりが気軽に自由に話すという手法。上下関係に関わらず、率直な意見や斬新なアイデアを自由に出し合うことを目的としている。 ●AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー):探求や質問によって、個人や組織の価値を認め、高めていく手法。強みの発掘や、能力の引き上げを目的としている。
組織開発を進めていくためには、これらの手法を活用しつつ、以下の6つのステップを踏んでいく必要があります。
組織開発を実践する6つのステップ

ステップ①:組織としての目的の明確化
組織開発は、あくまで組織をより良いものにするための手段であって、組織開発自体は目的とはなりません。そのため、まずは組織としての目的を明確化する必要があります。企業理念やミッション・ビジョン・バリューと照らし合わせながら、「どういう組織を目指していくか」を決めましょう。
ステップ②:組織の現状把握
組織の問題は、「最近、従業員同士の会話が減ってきているように感じる」「従業員がみんな疲れた顔をしているように感じる」といったように漠然とした印象として語られることも多いでしょう。しかし、それでは「組織としての課題がどこにあるのか」「どのような解決方法があるのか」などを検討することができません。組織開発を実践するため、従業員へのインタビューやアンケートにより、組織の現状を的確に把握しましょう。それにより、組織として目指すべき姿と現状のギャップが明らかになります。
ステップ③:課題の絞り込み・設定
組織の現状を把握したら、次に「具体的にどのようなことが組織の課題なのか」、課題の仮説をいくつか立てます。組織の課題には「従業員のモチベーション」「職場の雰囲気」とった複数の要因が複雑に絡み合っていることが多いとされています。さまざまな角度から検証を行い、課題の絞り込み・設定をしましょう。
ステップ④:アクションプランの検討と試験的なアプローチの実施
課題を設定したら、次に具体的なアクションプランを考えます。その際、影響力のあるキーパーソンに課題解決の必要性を説明し、キーパーソンからの同意を得ておくと、組織開発を進めやすくなります。想定外の状況が発生する可能性や、一度に全社に展開した場合の影響の大きさなどを考慮し、まずは特定の部門・チームに絞ってワークショップを行うなど試験的なアプローチを実施しましょう。
ステップ⑤:効果検証とフィードバック
試験的なアプローチの期間が終わったら、すぐに「どのような成果が出たか」「課題を解決することができたか」「今度、どう改善していくと良いか」など、効果検証とフィードバックを行います。効果検証とフィードバックをタイムリーに行うことにより、組織開発の関係者のモチベーションが向上し、取り組みの見直しが行いやすくなるでしょう。
ステップ⑥:成功事例の全社への展開
試験的なアプローチに成功したら、「なぜ成功したのか」「特に効果があったのは、どの取り組みだったか」など成功事例のポイントを整理します。その上で、成功事例を全社に展開しましょう。併せて、「ワークショップや会議のファシリテーター向けマニュアルの整備」や「取り組みの成果をタイムリーに共有するための仕組みの構築」も行う必要があります。成功事例を全社に展開した後も効果検証やフィードバックを継続的に実施し、取り組みのさらなる改善や全従業員のモチベーション向上につなげていきましょう。
組織開発を実践する「はたらクリエイト」の事例
長野県上田市・佐久市で「リモートチームサービスhatakuriを展開する株式会社はたらクリエイトでは、組織開発として、日々さまざまな取り組みを行っています。
組織開発の目的は、ミッションの体現
はたらクリエイトの組織開発の目的は、ミッションである「はたらくをクリエイトすることで仕事を楽しむ人を増やす」の体現です。このミッションにスタッフ一人ひとりが向き合いながら、個々人・組織・事業が成長していけるように組織開発を行っています。
提供するサービスを自分ごと化するワークショップ
クライアント企業様に提供している「リモートチームサービスhatakuriをスタッフ一人ひとりがより自分ごととして考えられるよう、少人数グループでのワークショップを行いました。グループごとに考えた「サービスビジョン」の案を全体会で発表し、投票。最終的に現在の「ともに成長するチームをつくろう」というサービスビジョンが決定しました。
また、スタッフそれぞれの ”強み” や ”在り方” を言語化する「BEの肩書きワークショップ」もあわせて実施。サービスと自分自身を紐づけ、一人ひとりが「自社のサービスを自分ごととして考える」きっかけとなった取り組みです。
組織開発のときに意識していること
はたらクリエイトが組織開発を実践するときに、意識しているのは「より多くのスタッフが関わる取り組みを行うこと」「取り組みを主体的に進めるスタッフを増やすこと」「さまざまなスタッフから提案が上がってくるのを後押しすること」の3点です。また、今後より個々の強みを活かした「自主自立型組織」に近付けていくため、「経験学習」の機会も積極的に設けています。
こうした考えのもと始まった取り組みとして、仕事を楽しむための新たな取り組みをスタッフが提案する「みんクリミーティング」、会社のMISSION・VISION・VALUEを体現するスタッフに感謝の気持ちを伝える「はたくりPON!」、クライアントへの理解を深める「クライアント紹介リレー」、スタッフの素敵な一面を伝える「スタッフ紹介リレー」、新人スタッフと先輩スタッフそれぞれの成長を目的とした「シスター制度」などがあります。
組織開発のプロセス
課題や状況の変化に応じて組織として成長していくため、「課題設定」→「具体的なアクション」→「効果検証」というプロセスを繰り返しています。そのため、試験運用期間を決めて行う取り組みが多いという特徴もあります。
例として、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って実施した取り組みが挙げられます。上田市内で感染者が出たことや、全国を対象に緊急事態宣言が発令されたことを受け、はたらクリエイトは原則在宅勤務の体制へと移行しました。スタッフの働き方が変化したことで、「直接顔を合わせる機会がなく、寂しい」「子供の面倒を見ながらの在宅勤務なので普段通りに業務を進められず、周囲に迷惑をかけていないか不安」といった声がスタッフから上がってくるようになりました。
そこで、はたらクリエイトでは全スタッフを対象にアンケートを実施。その結果、「子育てとの両立」「心身疲労」「コミュニケーション不足」の3つが大きな課題となっていることが判明しました。この3つの課題を解決すべく、Web会議システムを使った遠隔託児「リモート託児」やオンラインでの「ラジオ体操」、スタッフを4~5名のグループに分けてグループごとにリモートで何かにチャレンジする「リモート〇〇」などを実施。こうした取り組みにより、スタッフの抱える課題・不安が軽減されました。
はたらクリエイトでは今後も、人員構成やスタッフそれぞれの特性といった「人の状況」、「事業の状況」「社会の状況」などを踏まえながら、「どうすれば、『はたらくをクリエイトすることで仕事を楽しむ人を増やす』を実現していくことができるのか」「そのためには、誰がどう動くと最適なのか」を考え続けていきます。
組織開発を実践するその他企業の事例
組織開発を実践する、その他の企業の事例を紹介します。
ヤフー株式会社 ~経営改革を機に、組織開発をスタート~
インターネット関連事業を展開しているヤフー株式会社では、2012年から始まった経営改革を機に、組織開発を実践し始めました。当時はスマートフォンの利用が急激に増加した頃で、変化する市場への対応が急務でした。しかし、大企業でよく見られる非効率的な企業体質「大企業病」が課題となっており、経営陣は危機感を抱いていたようです。
そこで、変化に対応できる組織を作るべく、組織開発の取り組みが始まりました。さまざまな取り組みが行われましたが、その中でも核となったのが上司と部下との「1on1ミーティング」です。「1on1ミーティング」が浸透するまでには時間がかかりましたが、今では多くの社員が「自己成長に役に立つ」場と評価しているようです。また2013年には組織開発の専門チームを設置。それを機に、組織開発により積極的に取り組むようになったそうです。
株式会社グッドパッチ ~組織とカルチャーの崩壊を、組織開発で立て直し~
UI/UXデザインやビジネスモデルデザインなどの事業を展開している株式会社グッドパッチでは、企業の急成長に伴い、2016年に従業員数が急激に増えました。それにより、「元からいるメンバーと新しく入ったメンバーが対立する」「導入した評価制度に納得できないメンバーが反発し、大量離職する」「管理部メンバーのほぼ全員が退職する」といった、組織を揺るがす問題が勃発。代表取締役社長の土屋尚史氏は自身のSNSで当時の状況を「あの時、Goodpatchのカルチャーは一度死にました」と語っています。
そうした状況を打開すべく、2017年から組織開発を始めました。例として、「少人数のユニット内での心理的安全性の確保」「再現性の向上を目的とした、ナレッジシェアリングの仕組み化」「プロジェクトレビューの仕組み改善」「Core Valueの再構築」といった取り組みが挙げられます。そうした取り組みの結果、組織とカルチャーを立て直すことに成功し、従業員エンゲージメントが高まったようです。
組織開発を学べるオススメの本とセミナー
組織開発を詳しく学びたい方にオススメの本とセミナーを紹介します。
『マンガでやさしくわかる組織開発』(日本能率協会マネジメントセンター)【著】中村和彦
組織開発の考え方を、マンガのストーリーをもとに解説している1冊。マンガを読み、ストーリーを疑似体験しながら、組織開発について学ぶことができます。内容が分かりやすいため、組織開発の入門書としてオススメです。
『入門 組織開発 活き活きとと働ける職場をつくる』(光文社)【著】中村和彦
組織開発が必要とされる理由や組織開発の特徴、歴史、理論、手法などを具体的な事例を交えて紹介している一冊。組織開発の全体像を理解するのに適しています。組織開発の入門書としてオススメの本です。
『組織開発の探求 理論に学び、実践に活かす』(ダイヤモンド社)【著】中原淳/中村和彦
組織開発の生まれたきっかけや変遷、組織開発を実践する際の具体的な手法などを解説している一冊。ケーススタディとして、実際の企業の事例を取り上げています。「初級編」「プロフェッショナル編」「実践編」という構成になっているため、理解度に応じて読み進めていくことが出来ます。
OD Network Japanによるセミナー
組織開発に実際携わっている人達や研究者を対象としたコミュニティであるOD Network Japanでは、組織開発の講座を開催しています。組織開発について学びたい全ての人達に向けた「基礎講座」と、基礎講座を終了した人達に向けた実践的な「事例講座」の2つの講座があります。
JMAマネジメントスクールによるセミナー
日本能率協会(JMA)主催のJMAマネジメントスクールでは、組織開発に関連したさまざまなセミナーを開催しています。例として、「実践 職場の風土改革 すすめ方習得セミナー」や「リーダーのための人が育つ組織づくりセミナー」「学習する組織をつくる「システム思考」セミナー」などが挙げられます。
リクルートマネジメントソリューションズによるセミナー
リクルートグループのリクルートマネジメントソリューションズでは、組織開発に関連したセミナーを数多く開催しています。例として、「ダイバーシティ&インクルージョン 多様性を受け入れ生かす組織を考える」「イノベーション・ワークショップ(組織編) アイデアがどんどん出てくる組織・チーム作りのヒント」などが挙げられます。オンラインで受講可能な講座も多いようです。
組織開発により、健全かつ効果的に機能する組織を作ろう
組織で働く「人」と「人」との関係性に着目した組織開発を行うことで、組織の抱える課題を解決することができます。組織開発を実践する際には、「コーチング」や「ワールドカフェ」といった手法を活用しつつ、「組織としての目的の明確化」から「成功事例の全社への展開」までの6つのステップを踏む必要があります。
実際に組織開発を実践している企業の事例を参考にさまざまな取り組みを実施し、健全かつ効果的に機能する組織を目指してみてはいかがでしょうか。