物事を多角的に捉える「インテグラル理論」の4象限とは?企業での活用事例を紹介

世界や物事を複数の視点から多角的に捉えるためのフレームワークである、「インテグラル理論の4象限」。「インテグラル理論の4象限とはどのようなものか」「どのように、組織に活用していけばよいのか」など知りたい経営者やリーダーの方もいるでしょう。今回は、インテグラル理論や4象限の概要、インテグラル理論の4象限を活用している企業の事例について、紹介します。
インテグラル理論とは?
インテグラル理論とは、世界や物事を統合的・包括的に捉えるための「メタ理論」のこと。「意識研究のアインシュタイン」や「現代の最も重要な思想家の一人」と称される、アメリカの思想家ケン・ウィルバーが提唱しました。
インテグラル理論では、「1つの側面からだけでなく、複数の視点から全体を捉える」ことを大切にしています。自然科学や社会科学、芸術、人文学など、人間や人々の意識に関わるあらゆる主要な知識領域の理論をもとに、それらを包括的に捉えるための理論体系として、インテグラル理論が生み出されました。現在では、世界や物事、人間などを包括的に捉えるための理論として、環境問題や国際問題の解決、組織開発などにも活用されています。
インテグラル理論の構成要素
インテグラル理論の基本概念は、「AQAL」と呼ばれています。「AQAL」とは、「All Quadrants, ALL Levels, All lines, All states, All types((全象限、全レベル、全ライン、全ステート、全タイプ))」の略語。「象限」「レベル」「ライン」「ステート」「タイプ」の5つは、インテグラル理論の構成要素とされています。
インテグラル理論の5つの構成要素 ①象限(Quadrants):4象限(「内面」と「外面」、「個人」と「集団」という軸のかけ合わせ) ②レベル(Levels):発達過程の段階(発達段階によって、色分けされる) ③ライン(Lines):領域、多様な能力の分類(対人関係、政治、言語、道徳など) ④ステート(State):意識状態(覚醒状態、夢見状態など) ⑤タイプ(Types):分類、差異(男性と女性、人種など)
今回の記事では、「AQAL」の一つである「4象限」について、詳しく見ていきます。
インテグラル理論が注目されている背景
インテグラル理論が注目されるようになったのは、フレデリック・ラルーが著書の中で「ティール組織」という概念を提唱したことがきっかけです。ティール組織とは、「組織の目的の実現に向け、全メンバーが意思決定を行う自律的な組織」のこと。2014年出版の『Reinventing Organizations』において初めて紹介されました。2018年には日本語版の『ティール組織 マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』が出版され、ベストセラーに。ティール組織の元となっているのがインテグラル理論であり、本の中では、インテグラル理論についても紹介されています。
また、インテグラル理論が注目されている背景には、AIやIoTといった技術革新の浸透による「市場」や「企業を取り巻く環境」の急速な変化も挙げられます。そうした変化を受け、「これまでのビジネスモデルが通用しなくなった」と感じている企業も多いのではないでしょうか。近年のこうした状況を、ビジネス用語では「VUCAの時代」と呼びます。VUCAとは、「Volatility(激動)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(不透明性)」の頭文字を取った言葉で、不確実性・不透明性の高い時代を指すものとして使われています。
世界や物事の複雑性が増しているVUCAの時代においては、「複雑化した問題に対し、いかに効果的な対応を行うか」を考えることが重要です。そのためには、「当然、こうするべき」「当然、こうあるべき」といった固定観念をなくし、ありとあらゆる可能性を探る必要があります。課題解決に向けたさまざまなアプローチの中でも、特に、インテグラル理論は複雑化した課題を把握し、多様な対応策を考える際に役立つ理論とされています。そのため、近年、インテグラル理論の重要性が増しているのです。
インテグラル理論の4象限
インテグラル理論の4象限とは、先ほど紹介したインテグラル理論の基本概念「AQAL」の一つで、「外面」と「内面」、「集団」と「個別」という軸によって構成されるフレームワークです。4象限を活用することで、物事を複数の視点から多角的に捉え、全体像を明らかにすることができます。

「外面」と「内面」という軸は、以下のような基準で考えるとよいでしょう。
外面/内面 | 判断基準 |
外面 | ●目に見えるもの ●客観的に捉えられるもの ●計測可能なもの |
内面 | ●目に見えないもの ●主観的に捉えられるもの ●計測不可能なもの |
4象限のそれぞれの枠にはどのようなこと・ものが含まれるのか、具体例を挙げながら、紹介します。
①【集団の外面】
「集団の外面」とは、共同体や組織といった「集団」で生み出されている「客観的に説明できるもの」のことです。会社においては、組織における「環境」や「制度」「構造」などが該当します。
「集団の外面」に対しては、「制度や環境の整備・見直し」により働きかけることが可能です。
②【集団の内面】
「集団の内面」とは、「集団」の関係者が共有している「目には見えない」もののことです。会社組織においては「空気」や「風土」「カルチャー」「関係性」「慣習」などが当てはまります。集団で共有している「規範」や「常識」「価値観」も、「集団の内側」の一つです。
「集団の内面」に働きかけたい場合には、主に「チームビルディング」などの手法がとられます。
③【個々人の内面】
「個々人の内面」とは、「関係者一人ひとり」の「主観的」なもののことです。具体的には、一人ひとりの「思考」や「感情」「価値観」「直感」「勘」などが該当します。
「個々人の内面」に対しては、「深層的・認知的な能力開発」や「対人支援」によるアプローチが行われます。
④【個々人の外面】
「個々人の外面」とは、「関係者一人ひとり」について「第3者が客観的に観察できる」もののことです。具体的には、個々人の「行動」や「発言」「役割」「表情」「姿勢」などが当てはまります。
「個々人の外面」に対しては、機能的、技術的なスキル開発により、働きかけることが可能です。
これら4象限は、互いに影響し合っています。そのため、「インテグラル理論の4象限」を組織に活用し、組織の課題解決や成長を図る際には、4つの領域に自覚的になり、バランスを取っていくことが重要です。4象限を使い、「4象限がバランスよい状態になっているか」「施策がどこかの領域に偏っていないか」を確認した上で、さまざまな解決方法や可能性を模索しましょう。

インテグラル理論の4象限を活用する「はたらクリエイト」の事例
長野県の上田市と佐久市に拠点を置く「株式会社はたらクリエイト」では、インテグラル理論の4象限を社内で活用しています。
組織の中では、どうしても「客観的」で「目に見える」外面にばかりが注目され、「主観的」で「目に見えない」内面の部分はおざなりになりがちです。そのため、組織のあり方を変えようとする際に、「研修の導入」や「売上目標の達成」といったなどの外面の施策に偏りがちになることも少なくないでしょう。
はたらクリエイトでは、「はたらくをクリエイトすることで仕事を楽しむ人を増やす」というミッションの実現に向け、「外面」のみならず、「スタッフ同士の関係性」や「社内のカルチャー」「一人ひとりの強み・価値観」といった「内面」にも目を向けることを大切にしています。
これまで、組織全体やスタッフ一人ひとりに対して様々な取り組みを行ってきましたが、組織のあり方を見つめ直そうとした際、「今、社内で何が起きているのか」「現状の施策は、どういった領域に偏っているのか」を確認するための地図として導入したのが、インテグラル理論の4象限です。
取締役CEmOの高木が登壇したオンライントークイベントのレポートをもとに、インテグラル理論の4象限の活用事例を紹介します。
これまでの組織の成り立ちを辿る
まず、4象限を活用して行ったのが、組織としての歩みやこれまでの出来事の整理です。miroというツールで付箋を使いながら、これまで行ってきた取り組みを、過去から未来に向かって全て洗い出しました。

ワークの際には、「自然と生まれた取り組み」と「意図的に仕掛けた取り組み」に分け、付箋に書き出し。はたらクリエイトでは、一見ネガティブな要素も大事なものとして考えているため、取り組みの過程で生まれた声や感情なども貼り出しました。作成した4象限をもとに、これまでの出来事について思いを巡らせる中で、見えてきたことがたくさんあります。
4象限から見えてきたこと(一例) ●コワーキングスペースの時代に生まれた「学び合い」や「助け合い」「コミュニティ」「文化」などが、今のはたらクリエイトにつながっている。 ●自転車操業のように取り組んできたことが、実は4象限を定期的に行き来してバランスを取っていた。 ●ネガティブなこと・感情が起爆剤となり、生まれた取り組みもあった。 ●「外面」の仕掛けにより、「内面」の変化にもつながっている。 など
はたらクリエイトの事業はコワーキングスペースという「環境」をつくることから始まっているため、「集合・外面」から仕掛けていくことが得意なのではないかという気付きも得ることができました。
このように、4象限を使ってこれまでの歴史を辿り、仲間にシェアすることは、「はたらクリエイト」という組織の全体像を俯瞰することにもつながっています。
取り組みの背景に立ち返る
はたらクリエイトでは、長く続いている取り組みの背景に立ち返るときにも、4象限を活用しています。ここでは、「ストレングスファインダー」を使った取り組みを例に、どのように4象限を活用したのかを紹介します。


「ストレングスファインダー」とは、一人ひとりがもつ「強み」の元を見つける診断ツールです。診断結果は全4分類・34資質に分かれます。
はたらクリエイトでは、スタッフ全員でストレングスファインダーを診断し、その結果をもとに自分自身の「取扱説明書」を作成するという取り組みを創業当初から行っています。
この取り組みの背景を、改めて一から振り返ろうとした際に活用したのが、4象限です。「取り組み実施前の課題感」や「取り組みに込めた想い」などを4象限を使って整理した結果、以下のような課題感や想いが見えてきました。
取り組み実施前の課題感 ●結婚・出産などにより、仕事のブランクがある ●自分の強みがわからない ●他のスタッフから、認められたい ●スタッフの顔と名前が一致しない ●スタッフが急増したため、マネジメント体制が不足している ●サービスの構造上、評価制度を作るのが難しく、成長を実感しづらい など
取り組みに込めた想い ●自分自身の強みを認識したい ●心理的安全性を、チーム内・社内で育みたい ●顔と名前が一致するスタッフを増やしたい ●互いの理解を深め、違いを受け入れ合いたい ●スタッフ同士で強みをフィードバックし合うことで、成長実感を得たい ●互いを活かし合う文化や、自分自身で進化していこうという風土を生み出したい など
取り組み開始直後はみんなが同じ方向を向いていても、時間が経つにつれ、取り組みの背景や目的などが不明確になり、足並みが揃わなくなることもあるでしょう。はたらクリエイトでは、4象限を用いて取り組みの背景に立ち返ることで、取り組みの目的を再認識したり、取り組みへのエンゲージメントを高めたりしています。
起きている課題に対して目線を合わせる
起きている課題についての目線合わせをする際にも、4象限を活用しています。

「私は、会社に期待されていないのでは」という声が、スタッフから挙がってきたことがありました。上の図は、そうしたスタッフの声に対して「どのようなアプローチをしたらよいのか」を話し合った際に作ったものです。
4象限を活用し、起きている問題について、「どのような視点で語られているのだろうか」「何が原因となっているのだろうか」を洗い出しました。こうすることで施策に偏りが生まれづらくなったと感じています。
新たな施策を実行する際には、どうしても「外面」に偏りがちになるのが一般的です。はたらクリエイトでは、4象限を用いてさまざまな物事を総合的に見ていくことで、「外面」と「内面」、「集団」と「個」のバランスが取れた施策を打つことができると考えています。
バランスを可視化して新たな動きを生み出す
4象限を活用することで、新たな動き・取り組みも始まりました。

上の図は、社内で実施してきた研修を可視化した「研修MAP」というものを作る際に使ったものです。それぞれの研修が「何を目的としているものなのか」「外面と内面、集団と個のどこに働きかけるものなのか」を把握し、全体のバランスがとれているかを確認するために、4象限を用いました。
そうして作られたのが、こちらの研修MAPです。

4象限を活用することにより、バランスを可視化し、偏りがないかを認識することができます。どの部分が足りていないかが明確になることで、「足りない部分を補おう」という意識が生まれ、新しい動き・取り組みを生み出されています。
インテグラル理論の4象限を活用し、課題を解決しよう
「外面」と「内面」、「集団」と「個別」という軸によって構成される「インテグラル理論の4象限」を活用することで、物事を複数の視点から多角的に捉え、全体像を明らかにすることができます。「取り組みの背景に立ち返る」「取り組みの背景に立ち返る」「起きている課題に対して目線を合わせる」といった際に、インテグラル理論の4象限を活用することをおすすめします。インテグラル理論の4象限を活用し、組織が抱える課題の解決を図ってみてはいかがでしょうか。