フレックスタイム制の導入フローや残業などの注意点。導入企業の事例も紹介

お役立ち記事 2020.06.25
フレックスタイム制の導入フローや残業などの注意点


労働者自身で始業・終業の時間を決められる「フレックスタイム制」。働き方改革の一環として、フレックスタイム制を導入したいと考える経営者や人事・総務の方もいるのではないでしょうか。

今回は、フレックスタイム制の概要やメリット・デメリット、導入企業の事例、導入フロー・運営上の注意点、残業代などについて紹介します。

フレックスタイム制とは、始業・終業時間を自分で決定できる制度

近年、日本における課題として「少子高齢化」があります。労働人口の減少から人材不足に悩む企業も少なくないでしょう。そのような中、企業でも「新しい働き方」を取り入れる必要性が出てきました。また、厚生労働省が2019年4月に制定した「働き方改革関連法案」では、「長時間労働の是正」「多様かつ柔軟な働き方の実現」「雇用形態を問わない公正な待遇の確保」を推進しており、その対応策の一つとして「フレックスタイム制」の導入が広がっています。

ここでは、フレックスタイム制の概要や裁量労働制・変形時間労働との違いなどについてご説明します。
 

フレックスタイム制とは

フレックスタイム制とは、あらかじめ企業が定めた総労働時間で、労働者自身が1日の労働時間、あるいは始業・終業の時刻を決定することができる制度のこと。自分のライフスタイルに合わせられる働き方として注目されています。

フレックスタイム制の清算期間

清算期間とは、労働時間の調整をする上で基準となる期間のこと。「1週間」や「1カ月」など、企業があらかじめ設定する清算期間の中で、労働者は各労働日、時間を自主的に決めることができます。清算期間の上限はこれまで「1カ月」でしたが、2019年4月1日より「3カ月」へと改訂されました。

フレックスタイム制の清算期間延長のイメージ
(参考:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」)


フレックスタイム制と裁量労働制・変形時間労働制の違い

フレックスタイム制とよく似た制度として、「裁量労働制」や「変形時間労働制」があります。この2つの制度とはどのような違いがあるのでしょうか。
 

フレックスタイム制と裁量労働制の違い

裁量労働制とは、労働時間が労働者の裁量に委ねられている労働契約で、「みなし労働時間制」の1つです。フレックスタイム制が「所定労働時間を働く必要がある」のに対して、裁量労働制は「働いた時間が何時間であろうと、一定時間働いたとみなす」という点が大きな違いと言えるでしょう。
また、労働時間を算出する場合は、フレックスタイム制は「実労働時間」から計算しますが、裁量労働制は「みなし労働時間」で考えるといった点も異なります。
 

フレックスタイム制と変形時間労働制の違い

変形時間労働制とは、繁忙期や閑散期といった業務量の増減に対応するために、労働時間を月単位もしくは年単位で調整できる働き方のことです。1ヵ月や1週間単位での総労働時間が定められた範囲を超えなければ、残業にはなりません。変形時間労働制の中の1つにフレックスタイム制があると言えます。
 

フレックスタイム制の導入率

企業におけるフレックスタイム制の導入率はどのくらいなのでしょうか。厚生労働省が平成31年に行った「就労条件総合調査」をもとに、状況を確認してみましょう。
 

全企業の5%がフレックスタイム制を導入

平成31年1月1日時点で「変形労働制」を採用している企業は全体の62.6%にのぼりました。そのうち、フレックスタイム制を採用している企業は、全企業のうち5.0%になります。

フレックスタイム制の導入率を企業規模別に見ると、従業員数30~99人の企業では3.1%、100~299人の場合6.6%、300~999人では12.5%、1,000人以上では26.6%と、従業員数に比例して導入率が高くなっていることがわかります。

厚生労働省「平成31年就労条件総合調査」
(参考:厚生労働省「平成31年就労条件総合調査」)


労働者の8.2%にフレックスタイムが適用

また、労働者の8.2%がフレックスタイム制を適用していることがわかります。
労働者数が多い企業で導入率が高い傾向にあるため、労働者数に換算した場合の導入率は10%近くになっています。

厚生労働省「平成31年就労条件総合調査」
(参考:厚生労働省「平成31年就労条件総合調査」)



フレックスタイム制を導入しやすい職種

フレックスタイム制の導入に適した職種は、個人進める業務や技術的な業務だと言われています。具体的に、フレックス勤務ができる求人が多いのは、どのような職種なのでしょうか。

1位 ITエンジニア
2位 WEB・インターネット・ゲーム
3位 電気・電子・機械・半導体
4位 クリエイティブ
5位 企画・経営

(参考:マイナビ転職『フレックスタイム制は本当に働きやすい? 実態、コアタイム、制度の仕組みを解説』)

時間や場所が限られずに業務を進められる職種や、仕事の割り振りが明確であることが多い職種は、フレックスタイム制を導入しやすいようです。反対に、「他の部署や企業との連携が多い職種」や「営業職」などは、対面での接客や商談、打ち合わせなど相手先の勤務時間も影響してくるため、あまり導入されていない傾向にあるようです。
 

コアタイムの設定

フレックスタイム制とはいえ、24時間のうち自由に出退勤できる訳ではありません。フレックスタイム制を導入している企業の中には、1日の労働時間を「コアタイム」と「フレキシブルタイム」に分けて運用している企業もあります。

「コアタイム」とは、1日の中で必ず労働しなければならない時間帯のこと。その時間帯内であればいつでも出退勤が可能な時間帯である「フレキシブルタイム」と上手く組み合わせることで、生産性を落とさずに業務を進めることができるでしょう。

コアタイムとフレキシブルタイムの概要図



フレックスタイム制のメリット

フレックスタイム制を導入するにあたり、どのようなことがメリットとなるのでしょうか。
 

ライフスタイルに合わせた働き方ができる

フレックスタイム制の導入により、1日の勤務時間を自由に設定できます。そのため、子育てや介護、次のステップへの勉強など、ライフスタイルにあった働き方が実現でき、ワークライフバランスの実現につながると言えます。
 

人材の確保・定着につながる

結婚や子育て、通院などを機にワークライフバランスがうまく取れず、離職を考える従業員もいるかもしれません。フレックスタイム制の導入により勤務を継続しやすくなることから、離職防止に役立つでしょう。また、働き方の選択肢が広がることから、人材の確保や定着につながると期待できます。
 

無駄な残業や労働負担が減らせる

フレックスタイム制を導入すると、月初は自分の仕事が終わったら早めに帰宅して、月末の忙しい時期にその分を充てるなど、効率的な時間配分が可能になります。また、勤務時間超過してしまった日があった場合、超過した分別日に早く終業とするなど、週や月単位で調整することができるため、不要な残業時間や労働者の身体的疲労の軽減につながるでしょう。
 

フレックスタイム制のデメリット

フレックスタイム制にはさまざまなメリットが期待できる一方で、課題もあります。フレックスタイム制のデメリットについて紹介します。
 

時間の調整が難しい

フレックスタイム制では、「緊急で会議をしたい」「取引先から連絡が来た」といった場合に、すぐに対応できない状況も想定されるでしょう

そういった問題が起きないように、コアタイムを設け、緊急事態やイレギュラー発生時のルール決めなどの対策が必要です。
 

社員同士のコミュニケーションが難しい

フレックスタイム制は自由な時間に出退勤をするため、働く時間が合わずに、社員同士のコミュニケーションが不足傾向に陥る可能性があります。こちらもコアタイムや、部署やチームなど社員が集まってコミュニケーションを図れるイベントや機会を定期的に設けるなど、工夫するといいでしょう。
 

出退勤の管理が難しい

労働時間を1カ月や3カ月という期間で管理するため労働時間が把握できていないと、総勤務時間の不足や超過を見落としてしまう可能性があります。そのため、従業員と管理者双方が管理しやすいような勤怠システムの導入などを検討してみるといいでしょう。
 

フレックスタイム制の導入企業の事例

フレックスタイム制はどのような企業で導入されているのでしょうか。導入企業の事例を見てみましょう。
 

三井物産ロジスティクスパートナーズ

三井物産ロジスティクスパートナーズでは、「社員の満足度」と「収益力」の向上を目的に、11時~15時をコアタイムとするフレックスタイム制を導入しています。フレックスタイム制の導入により時間の使い方にメリハリがつき、業務の効率化を図りながら残業時間を減らすことで、業績の向上につながったようです。
 

ソフトバンク株式会社

ソフトバンク株式会社では、コアタイムのない「スーパーフレックスタイム制」を導入しています。業務状況に応じて出退勤の時間を日単位で変更できるため、チームや個人は最も集中できる時間帯に業務を行うことができ、生産性や業績の向上につながっているようです。
 

株式会社はたらクリエイト

株式会社はたらクリエイトでは、9時から18時までをフレキシブルタイムと、従業員それぞれが始業及び終業時刻、休憩時間の決定をしています。従業員の約85%が子育て中の女性である当社では、フレックスタイム制によって子どもの送迎や行事、体調に合わせた勤務時間や休暇の設定・変更がしやすくなり、「働きやすさ」につながっているようです。
 

フレックスタイム制の導入フローと運営する上での注意点

フレックスタイム制を導入・運用するうえで、いくつかの注意点があります。フローとあわせてご紹介します。

フレックスタイム制の導入フロー


①対象者を決める

まずはじめに対象となる労働者の範囲を決定します。業務内容や取り引き先との関係などを踏まえた上で、「社員のみに限る」「全労働者」「特定の職種や部署の労働者」など、企業によって対象となる社員の範囲を決めましょう。
 

②就業規則を変更する

続いて就業規則の変更をします。フレックスタイム制を導入するには、「始業・終業時刻の決定を労働者に委ねる」旨を就業規則に定める必要があります。また、コアタイムやフレキシブルタイムの設定する場合には、「何時から何時までが対象となるのか」を明記します。
また、就業規則を変更する際は、労働基準監督署への届け出が必要なため、確実に手続きを行いましょう。
 

③労使協定を締結する

就業規則の変更とあわせて、事業場の過半数労働組合または過半数代表者との間で、労使協定を締結する必要があります。労使協定では、以下の項目を定めましょう。
 

フレックスタイム制を適用する範囲

先述した通り、フレックスタイム制を適用する対象者となる範囲を明記します。
 

清算期間と起算日

3カ月のうち、「清算期間を何日とするか」「いつからいつまでの期間を一定時間勤務とするか」を明確にする必要があります。「1日から31日まで」「15日から翌月14日まで」など、企業の状況にあわせた清算期間、起算日を検討しましょう。
 

総労働時間と1日の労働時間

清算期間において、総枠となる「働くべき総所定労働時間」と、それを基準とした「標準となる1日の労働時間」を決める必要があります。

総所定労働時間は、法定労働時間の1日あたり8時間、1週間あたり40時間にをベースに算出します。「標準となる1日の労働時間×当月の所定労働日数」という式を用いて算出するのが一般的です。標準となる1日の労働時間は、フレックスタイム制を導入する前の1日の所定労働時間をもとに設定するといいでしょう。
 

コアタイムとフレキシブルタイム

コアタイム、フレキシブルタイムを設けるかは企業によりますが、設定する場合は時間帯を明確にしておきましょう。「何時から始業できるのか」「何時から何時までは、全員が出社している必要があるのか」など、あらかじめ決めておく必要があります。
 

④社内にアナウンスする

フレックスタイム制の導入により、出退勤時間が変わることや自分で設定することなどに抵抗を感じる人もいるかもしれません。導入前には、必ず労働時間についてのルールや勤怠の管理について、社内全体にアナウンスします。説明会や質問機会を設けるなどして、従業員が十分に理解できるように努めましょう。
 

⑤業務のフローやプロセスを見直す

フレックスタイム制が導入されると、社員によって出退勤時間が大きく変わることになります。取引先に影響が及ぶこともあるため、業務のフローやプロセスを見直しましょう。
 

⑥運用を開始する

導入に向けて準備が整ったら、運用開始です。勤怠の管理方法や残業時間の計算方法がこれまでとは変わるため、給与の計算時にはミスのないよう注意しましょう。
 

フレックスタイム制における残業代

フレックスタイム制では、1日の勤務時間ではなく、清算期間内で総労働時間を超えている場合に、残業代が発生します。
超過した時間分を次の清算期間の勤務時間として繰り越すことは認められておらず、企業は必ず清算期間ごとに残業代を支払わなければなりません。

また、フレックスタイム制で時間外労働を行う場合には、通常の時間外労働と同様に36協定の締結・届け出が必要となります。
 

残業代が発生する時間外労働

フレックスタイム制の清算期間が1カ月を超える場合は、以下の時間が「時間外労働」とみなされます。

①1カ月ごとの労働時間が、週平均50時間を超えた時間
②清算期間における実際の労働時間のうち、法定労働時間の総枠を超えた時間

法定労働時間の総枠

【1カ月単位】清算期間の歴日数【1カ月単位】法定労働時間の総枠【2カ月単位】清算期間の歴日数【2カ月単位】法定労働時間の総枠【3カ月単位】清算期間の歴日数【3カ月単位】法定労働時間の総枠
31日177.1時間62日354.2時間92日525.7時間
30日171.4時間61日348.5時間91日520.0時間
29日165.7時間60日342.8時間90日514.2時間
28日160.0時間59日337.1時間89日508.5時間

(参考:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」)


清算期間を3ヵ月とした場合の時間外労働のイメージ
(参考:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」)

ここで気をつけたいのが、「法定内残業」なのか「法定外残業」なのかです。フレックスタイム制の場合、「総所定労働時間」を超えていても、労働時間が目安となる時間以下の残業であると「法定内残業」となります。

目安となる時間
清算期間が1週間の場合:40時間
清算期間が1カ月の場合:上記「法定労働時間の総枠」を参照


例として、30日の場合の計算式は以下のようになります。

清算期間1ヵ月(30日)の場合


残業代の計算方法

法定労働時間を超えて働いた場合は、割増率が1.25倍の残業代が発生します。フレックスタイム制の残業代を割り出す方法を見てみましょう。

計算式は以下の通りです。

残業代の計算方法

基礎時給は、各社で設定した「1日の労働時間」から割り出します。倍増率は時間外労働と深夜労働が1.25倍、法定休日労働が1.35倍となどと、労働条件によって割増率が変わってくるため注意しましょう。
 

新しい働き方としてフレックスタイム制を取り入れてみよう

フレックスタイム制は、一定期間内における出退勤の時間を労働者自身が決められる制度で、人材の確保・定着や過度な残業や労働負担を減らせるといったメリットがあります。
働き方改革によって多様な働き方が推進されるいま、従業員の「働きやすさ」を考え、導入フローや注意点を考慮した上でフレックスタイム制を取り入れてみてはいかがでしょうか。

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