従業員エンゲージメントを向上させる方法。高めるコツと企業の成功事例

お役立ち記事 2020.06.18
従業員エンゲージメントを向上させる方法


会社に対する信頼度や貢献意欲を表した「従業員エンゲージメント」。「離職率を改善したい」「従業員エンゲージメントの高め方がわからない」といった悩みを抱える経営者やマネージャー、人事担当者の方もいるのではないでしょうか。

今回は、従業員エンゲージメントの概要や高いことによる効果、高めるための方法、企業事例、役立つツールについて紹介します。

従業員エンゲージメントとは、従業員の会社に対する貢献意欲のこと

「従業員エンゲージメント」とは、従業員が会社に対しての信頼度の高さや貢献したいという気持ちの高さを表す概念のことです。もともと「エンゲージメント(engagement)」には、愛着心や絆、思い入れといった意味があります。そこに「従業員」を足すことで、従業員が会社に寄せている信頼や貢献したいという意欲といった、「従業員の会社に対する愛着心」を表す人事用語として、認知されるようになりました。

これまで日本では、終身雇用が一般的だったため、同じ企業で長く働くうちに従業員エンゲージメントは自然に高まると期待されていました。しかし、近年は人材の流動化が進んでおり、現在の企業では「従業員にいかに継続して力を発揮してもらうか」という、従業員エンゲージメントの向上が求められています。

日本の従業員エンゲージメント

米ギャラップ社が世界139ヵ国の企業を対象に実施したアンケートによると、日本の従業員エンゲージメントは6%で、米国の32%と比べて大幅に低く、139ヵ国中132位と世界最低基準という結果が出ています。現在の日本企業は、世界と比較しても従業員エンゲージメントは低いことがわかります。

米国ギャラップ社「熱意あふれる社員」の割合調査
(参考:米国ギャラップ社「熱意あふれる社員」の割合調査


 

従業員エンゲージメントの3つの要素

「従業員のエンゲージメント」は、3つの要素によって構成されていると言われています。

 ①理解度企業の理念や目標など組織の方向性を理解する
 ②共感度組織の方向性を理解した上で、それを支持する
 ③行動意欲企業の理念や目標のために、自ら行動する

これら3つの要素によって、「企業や組織のために自らの力を貢献しようとする状態」に在ると言えるでしょう。

従業員満足度、ワークエンゲージメント、帰属意識との違い

「従業員エンゲージメント」と混同しやすい言葉として、「従業員満足度」「ワークエンゲージメント」「帰属意識」があります。これらとの違いについて紹介します。

従業員満足度との違い

「従業員満足度」とは、企業と従業員の関係を表す指標の1つです。「目標やビジョン」「業務内容」「職場環境」「福利厚生や待遇」など、従業員が企業に対して「満足できているか」を数値化したものとなります。

「従業員エンゲージメント」は、企業への理解や共感を持ち「自発的な貢献意欲」であり、関係性を従業員と組織の双方向から捉えています。それに対し、「従業員満足度」は、従業員が組織で働く中での「居心地の良さ、働きやすさ」に焦点を当てた指標であり、従業員から企業への満足度を一方的に測定したものとなります。

ワークエンゲージメントとの違い

「ワークエンゲージメント」とは、従業員が仕事に対する充実感や就業意欲を総合的に表現した概念を指します。仕事に対するポジティブさや充実しているかなど、「心の健康度」を示しています。

「従業員エンゲージメント」は、従業員と組織の間を測るものなのに対し、「ワークエンゲージメント」は、従業員と仕事内容の間を測ることが、違いと言えるでしょう。

帰属意識との違い

「帰属意識」とは、「集団の中に属している」「この会社の一員である」といった自覚のことを指します。帰属意識が高まること、積極的に組織やチームへ関わりたいと思うようになり、そのグループを高めようと望むことにもつながります。

「従業員エンゲージメント」は、従業員が抱いている会社への信頼度や貢献意欲であり、「帰属意識」は、自分が組織の一部として考えられているかといった自覚・意識であるといった違いがあります。そのため、「この会社・チームの一員である」といった帰属意識は、3つの要素のうちの1つ「共感度」である組織への支持につながると言えます。


従業員エンゲージメントが高いことによる効果

従業員エンゲージメントが高いと、組織にはどのような効果があるのでしょうか。

離職率が低下する

近年、有効求人倍率の上昇や働き方の多様化により、労働者の選択肢が広がっている状態にあると言えます。従業員エンゲージメントを高めることで、「ここで働き続けたい」という思いが芽生え、離職率が低くなるでしょう。



サービスレベルや顧客満足度が上がる

従業員エンゲージメントが高まると、従業員は企業に「貢献したい」という気持ちが生まれ、仕事へのモチベーションが高まると言われています。仕事へのモチベーションが高まることで、「さらに良いものを」「さらに上を」と目指す気持ちが生まれ、サービスレベルの向上が期待できます。サービルレベルの向上により、結果として顧客の満足度も高まるでしょう。また、「顧客満足度が上がることで、さらに従業員のモチベーションも上がる」という相乗効果も期待できます。

業績が上がる

従業員エンゲージメントが高まることにより、業績アップに効果あるといった調査結果があります。タワーズワトソンの調査(Global Workforce Study)では、従業員エンゲージメントが高い企業は、低い企業と比べて営業利益率に約1.5倍の差も差が見られることがわかりました。また、株式会社リンクアンドモチベーションが行った「エンゲージメントと企業業績」ついての研究では、従業員エンゲージメントが1ポイント上がると、営業利益率が0.35%向上することが明らかとなっています。

従業員エンゲージメントが高まるにつれて、従業員の定着やサービスレベル・顧客満足度の向上に伴い、業績の向上にも効果があると言えそうです。


従業員エンゲージメントを向上させる方法

従業員エンゲージメントを高めることによって、組織や顧客への効果が期待できるとわかりました。向上させるには具体的にどのような取り組みが必要なのでしょうか。

企業理念や、ミッション・ビジョン・バリューを明確に共有する

従業員エンゲージメントは、従業員が企業の目指す方向性の「理解度」やビジョンを支持する「共感度」が高まった上での貢献意欲を指します。組織の方向性に対する理解や共感を仰ぐためには、企業理念やミッション・ビジョン・バリューを明確に共有していくことが大切です。

会社の目指すべき方向を社内に伝えていくことで、自分の取り組んでいる仕事が社会に「どのような価値を提供できるのか」「どのように貢献できているのか」を実感することができるでしょう。


社内のコミュニケーションを活性化させる

社内のコミュニケーション不全によって、愛社精神が損なわれてしまう可能性があります。そのため、同僚やチームメンバーとの関係が築きやすいよう、発言しやすい環境づくりが不可欠だと言えるでしょう。上司やリーダー層の人は、従業員の心理的安全性を確保することで、積極的に社内でのコミュニケーションを取るよう意識してみるといいかもしれません。

また、ランチやイベントで交流機会を設けるなど、社内のコミュニケーションが活性化するきっかけとなるような取り組みをしてみてもよいでしょう。


人事評価とフィードバックを適切に行う

働く上で「正当な評価」は、「自分の仕事を認めてもらえている」「認めてもらえるから、さらに会社のために頑張りたい」という、仕事への意欲につながりやすいと言えます。そのため、公平性があり従業員が納得できる評価制度があるといいでしょう。また、人事評価制度の見直しだけでなく、適切なフィードバックを行うことも、従業員の自発的な行動を引き出し従業員エンゲージメントを高める上では重要とされています。

欠点の指摘や注意ではなく、成果や貢献の結果に対して肯定的なフィードバックを積極的にしていきましょう。

従業員の意思やスキルに適した人材配置

一人ひとりが持つ能力に見合ったマネジメントをすることで、強みや得意分野をさらに自信をもって取り組むことができるため、従業員エンゲージメントが向上すると言えます。従業員が持つ考えやスキルを把握し、人材配置や人材育成を適材適所行っていく必要があるでしょう。「適切な場所で働けている」と感じられると、組織や上司が理解してくれているといった安心感や信頼感につながるからです。

従業員エンゲージメントを定期的に調査する

従業員エンゲージメントは目に見えるものではないため、「現在はどのくらいなのか」や「施策によって実際に高まったのか」が実感しにくいとされています。

そのため、定期的に調査を行い、従業員の変化や施策の効果が把握することが重要です。また、ツールを用いた調査は、数値として従業員エンゲージメントを捉えることが可能となります。組織の現状を的確に把握するために、ツールを利用してみてもいいかもしれません。(ツールについては後ほど紹介します)


従業員エンゲージメントを向上させた企業の事例

実際に企業ではどのような方法で、従業員エンゲージメントを向上させているのでしょうか。企業の事例をもとに実際の施策について紹介します。

スターバックスコーヒージャパン 株式会社

スターバックスでは、従業員のエンゲージメントが企業の一体感につながると考え、採用時からミッションやバリューへの共感を働きかけています。顧客や店舗、地域のために何ができるかという欲求が、従業員の自発的な行動につながっているようです。

入社時に、従業員一人ひとり業務に関わらず「なりたい自分」を考えます。その実現のために、この仕事を通して身につけたいことを考え、「個人の成長目標」と「パフォーマンスに関する目標」を掲げるそうです。学生やアルバイトなど職位を問わず、目標をもとに4ヵ月に一度振り返り機会を設けることで、自己理解や成長実感へとつながっていると言います。

株式会社 セールスフォース

セールスフォースでは、「カスタマーサクセス」「イノベーション」「信頼」「平等」をコアバリューとして掲げ、特に「従業員の成功実現」も含めた「カスタマーサクセス」にフォーカスを当てていると言います。

従業員エンゲージメントを高める施策として、「ウェルビーイング補助」といったジムやマッサージに行くなど健康維持のため取り組みに対し、会社から月に1万円の補助を行っています。他にも、福利厚生制度の使用率を自社システムによる分析や部下が5人以上いるマネージャーの評価を全社の公表、在宅勤務・フレックス制度の導入など、会社の目指す姿に対する施策の改善を取り入れているようです。

これによって、従業員の「平等」やライフスタイルに合った環境となり、従業員エンゲージメントの向上につながっていると言います。

株式会社 小松製作所

小松製作所では、従業員エンゲージメントは直属の上司に左右されるのではないかと考え、マネージャー層に対し5つの「気を配るべき項目」を伝えています。内容は、「信頼」「モチベーション」「変化」「チームワーク」「権限委譲」であり、これらの実践ができる場として研修とワークショップを実施したそうです。

2011年度に自社の考え方や価値観の解説を事例を交えて追加、さらには従業員エンゲージメントの強化に取り組んだ2012年度に、グループ会社のマネジメント層に説明会を実施しました。ビジョンやミッションを的確に伝えたことで従業員の共感を得られ、従業員エンゲージメントの向上につながったと言います。


従業員エンゲージメントを向上させるためのツール

先述したように、従業員エンゲージメントを可視化することで、向上しているのかや停滞しているのかなどの判断がしやすくなります。可視化できるツールを4つ紹介します。

MOTIVATION CLOUD

株式会社 Link and Motivationが提供する「MOTIBATION CLOUD」は、独自に開発した従業員の期待度や満足度などエンゲージメントサーベイに回答すると、他社・項目・属性・経年の比較など多方向からの分析が可能です。

スコアやレコメンドシステムによるアクションプランをもとに、社内や部署ごとの目標数値や改善項目を設定し、人事担当者はアクションプランに沿って進捗のチェックが可能となります。また、モニタリングやフィードバック機能によって、経営者側は各部署の現場や人事の動きなど進捗状況の確認もできるようです。

(参考:「MOTIVATION CLOUD」

WEVOX

株式会社アトラエが提供する「WEVOX」は、5ヵ国語に対応しているのが特徴です。回答結果は、「職務」「自己成長」などの仕事や「理念戦略」「環境」など組織に対するエンゲ―ジメントを9つの指標で可視化する仕組となっています。また、生産性に関係すると科学的に証明された設計を用いていることから、改善点や影響のある要素を特定しやすいと言えます。

カスタマーサクセスチームによる導入から運用、定着までのサポートにより、他社の改善事例をもとに、課題抽出や改善アクションの施策を提供してもらえるようです。そのため、離職や心身の不調に傾きが出たエンゲージメントが低い従業員に、積極的なサポートが行いやすいと言えるでしょう。

(参考:「WEVOX」

Geppo

株式会社ヒューマンキャピタルテクノロジーが提供する「Geppo」は、「仕事満足度」「人間関係」「健康」に関する質問に加えて、会社独自の質問が設定でき、課題や自覚がない不調を早期発見できる仕組みとなっています。月に1度行う「個人サーベイ」と、半期又は四半期に1度行う「組織サーベイ」と、双方のエンゲージメントを確認できます。

レポートフォーマットは「重要度」「緊急度」「相関レベル」「実行可能性」といった4つの中から要因を割り出せるため、課題が一目でわかりやすいと言えます。また、こちらもカスタマーサクセスによって、第三者の意見をもとに改善策を考えていけるでしょう。

(参考:「Geppo」

HR On Board

エン・ジャパン株式会社が提供する「HR On Board」は、入社者の定着を考え「退職予兆」のデータを分析できる仕組みとなっています。メールやSNS、アプリなど従業員に合ったツールを用い、独自の設問に毎月1度答えることで離職リスクを素早くキャッチできると言います。

課題を可視化するだけでなく、フォローのための対策を独自のアルゴリズムによって、推奨アクションが提案されるようです。また、上司宛てに入社者の活躍や定着に向けたコミュニケーション術を定期的に配信されるため、適切な時期にフォローができます。

(参考:「On Board」


いずれのツールも従業員エンゲージメントを「数値化」「可視化」することで、組織やチーム課題が明確となります。従業員エンゲージメントの数値が高い場合や、向上が見られた場合に、採用担当者はそれを応募者が見られるようにすることで、採用時に有利となるかもしれません。


従業員エンゲージメントを高めて、働きやすい職場を求めよう

従業員エンゲージメントとは、従業員の会社に対する「信頼度」や「貢献意欲」を表す概念です。日本では従業員エンゲージメントが低いとされているいま、離職率の改善や顧客満足度アップに向けて高めることで、業績の成果につながるっていくと言えます。

まずは企業の方向性を社内へ徹底してアナウンスし、コミュニケーションを活性化するなどして、少しずつ向上を図ってみましょう。課題を明確にするため、ツールを用いて可視化してみてもいいかもしれません。

組織の現状を把握して課題を1つずつ解決していくことで、従業員エンゲージメントを高め、従業員が「働きたい」と思える職場づくりをしてみてはいかがでしょうか。

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