キャリアアンカーとは?8つの分類と企業での活用法【無料診断付き】

お役立ち記事 2020.04.09


「キャリアを選択するときに最も重要視する価値観」を診断する「キャリアアンカー」。診断結果は全8タイプあり、企業内で取り入れることで、社員一人ひとりの仕事に対する考え方を知るきっかけになります。

社員のキャリアアンカーを大事にすることは、エンゲージメントや生産性の向上にもつながるでしょう。今回は、キャリアアンカーの8つの分類や社内での活用方法などを紹介します。ダウンロード可能なチェックシートもありますので、ご活用ください。

キャリアアンカーとは

「キャリアアンカー」とは、1970年代にアメリカの組織心理学者エドガー・シャインによって提唱された概念です。

英語では「career anchor」と表記し、anchorは「船の錨(いかり)」を意味しています。キャリアアンカーを診断することで、社員一人ひとりが「キャリア」形成という長い航海を進める際の軸となる、仕事に対する価値観「アンカー」を明らかにすることができます。

キャリアアンカーは一度形成されると、環境の変化があってもさほど変化しないと言われています。近年グローバル化やAIの発展などにより、働き方が急激に変化する中、中長期的に「何をしたいか?(What)」を考えるのは困難です。そこで、軸となる「どうありたいか?(How)」を問うキャリアアンカーが注目を集めています。


キャリアアンカーの8つの分類

エドガー・シャインによると、キャリアアンカーは以下の8つに分類されます。

① 専門・機能的能力(Technical / functional competence)
② 管理能力(Managerial competence)
③ 自律・独立(Autonomy / independence)
④ 保証・安定(Security / stability)
⑤ 創造性(Entrepreneurial creativity)
⑥ 奉仕・社会貢献(Service / dedication to a cause)
⑦ 純粋な挑戦(Pure challenge)
⑧ ワークライフバランス(Lifestyle)

仕事に対する価値観や思考などを、8つの分類ごとに見ていきましょう。

①専門・機能的能力(Technical / functional competence)

「専門・機能的能力」に分類されるのは、特定の分野における「専門家」として自身の能力を発揮したいタイプです。このタイプの人は、特定の仕事に対する高い才能・意欲を持ち、自身の専門性やスキルを高めていくことに価値を見出します。

「エキスパートとして活躍したい」「専門的な知識・スキルは、誰にも負けたくない」という思考があり、「管理職」としてキャリアを築いていくことよりも、「専門家」として現場の仕事を続けていくことを望んでいます。

そのため、「自身の専門分野でコツコツと仕事をする」ことで、仕事への満足度が高まり、実力を最大限発揮できる傾向があります。

②管理能力(Managerial competence)

「管理能力」に分類されるのは、いわゆる「出世志向」が強く「管理職」として自身の能力を発揮したいタイプです。このタイプの人は、企業経営への関心があり、経営者側に立って物事を考え行動することに価値を見出します。

「組織を動かすようなスケールの大きな仕事がしたい」「責任のある仕事を引き受け、自身の成長につなげたい」といった思考があるため、「専門家」として特定分野で秀でる存在になることよりも、「ゼネラルマネージャー」や「経営者」としてのキャリアを築くことを望んでいます。

経営に必要とされる広範な能力を得ることを重視しているため、「若いうちは異動を積極的に受け入れる」「昇進するための資格取得に、積極的に取り組む」といった傾向があります。

③自律・独立(Autonomy / independence)

自律・独立に分類されるのは、「自分のペースやスタイル」を守りながら仕事を進めたい「研究職」「技術職」タイプです。このタイプの人は、組織のルールや規律といったものに縛られることなく、自由に行動できる環境の中で自身の力を発揮することに価値を見出します。

自立心や独立心が高く、「自分の納得のできるやり方で仕事を進めたい」「周囲の力を借りずに仕事をしたい」といった思考があるため、集団行動よりも一人での行動を望んでいます。

規律が強く求められる大企業ではなく、自分にある程度の裁量が認められる程度の企業で働くことで、実力を最大限に発揮できる傾向があります。

④保証・安定(Security / stability)

保証・安定に分類されるのは、「保証」や「安全性」を重視して働きたいタイプです。このタイプの人は、1つの組織で長期的・安定的に、ゆったりとした気持ちで仕事をすることに価値を見出します。

「将来的に安定性のある仕事をしたい」「リスクがあることは避け、予測可能な範囲内で仕事をしたい」「部署異動などの大きな変化はできるだけ避けたい」といった思考の持ち主です。

そのため、大企業や公務員など終身雇用が期待できる組織に就職し、より堅実な転職先が見つからない限りは転職を考えないという傾向があります。

⑤創造性(Entrepreneurial creativity)

創造性に分類されるのは、リスクを恐れず、新しい商品・サービスを創り出したい「起業家」タイプです。このタイプの人は、既存の枠組みにとらわれず、新商品・サービスを開発したり、新規で組織を立ち上げたりするといったことに価値を見出します。

「新しいものが好き」「自分の創造性を大切にしたい」「事業をスタートさせたい」といった思考の持ち主です。そのため、企業に属していても最終的に独立・企業の道を選んだり、企業にとどまる場合には社内ベンチャーを担当したりする傾向があります。

⑥奉仕・社会貢献(Service / dedication to a cause)

奉仕・社会貢献に分類されるのは、社会的に必要とされている「医療」「社会福祉」「教育」などの分野で力を発揮したいタイプです。このタイプの人は、自分の仕事によって世の中を良くすることに価値を見出します。

「社会貢献したい」「人の役に立つ仕事がしたい」といった思考があるため、「自分の仕事が、世の中のためになっているか」を重要視する傾向があります。

⑦純粋な挑戦(Pure challenge)

純粋な挑戦に分類されるのは、「難解な課題の解決」や「実力伯仲のライバルとの競争」など、あえて困難な状況に飛び込んで挑戦するタイプです。このタイプの人は、多くの人が無謀だと思うような厳しい状況下で問題を解決することに価値を見出します。

「挑戦」こそが人生のテーマであり、「不可能を可能に変えたい」「自分を磨きたい」「難しい仕事に挑戦したい」といった思考の持ち主です。毎日ルーティンワークを淡々と行うよりも、困難なことや新しいことに果敢に挑むことを好む傾向があります。

⑧ワークライフバランス(Lifestyle)

ワークライフバランス(Lifestyle)に分類されるのは、「仕事」と、家庭や自分の趣味といった「プライベート」とのベストなバランスを常に考えているタイプです。このタイプの人は、社会人として「仕事に熱心に取り組むこと」と、一個人として「プライベートの時間を大切にすること」を両立させることに価値を見出します。

「仕事以外の私生活も大切にしたい」「子どもが生まれたら、育児にも関わりたい」「仕事とプライベートの両立のため、有給休暇を確実に取得したい」といった思考の持ち主です。そのため、残業したり業務時間外の飲み会に参加したりすることよりも、在宅勤務や育休制度などを活用して仕事とプライベートを両立させることを好む傾向があります。


キャリアアンカーの診断方法 【無料診断シートのダウンロード】

キャリアアンカーは、アンケート形式の設問に答えることで診断できます。診断の際は、キャリアに関する全40問の設問に対して、「全くそのとおり」「だいたいそう」「どちらかというとそう」「どちらかというと違う」「やや違う」「全く違う」の6つの選択肢から最も当てはまるものを選びます。

正直に、あまり悩まずに回答しましょう。回答結果を集計表に落とし込むことで、自身のキャリアアンカーが分かります。チェックシートはこちらからダウンロードできますので、ご活用ください。



キャリアアンカーの活用方法

企業において、キャリアアンカーはどのような場面で活用でき、どのような効果が期待できるのでしょうか。社内への導入フローと併せて、紹介します。

企業に導入することによる効果

キャリアアンカーは、社員一人ひとりの仕事に対する価値観や、希望する働き方を知る手段の1つです。そのため、「採用」「新人教育」「人材育成」「人事異動」などの場面で活用できます。

キャリアアンカーを企業に導入することにより、

「自社にマッチする人材かどうか、採用時に判断しやすくなる」
「診断結果をもとに、新入社員や若手社員の育成計画を練ることができる」
「人事異動を行う際の、判断基準の1つになる」

といった効果が期待できます。

また、キャリアアンカーに合った人材育成や人事異動を行うことで社員のエンゲージメントが向上し、離職率の低下や生産性向上につながる可能性もあります。

社内への導入フロー

キャリアアンカーの導入フローは以下の通りです。


①チェックシートに回答

設問は全部で40問あります。「こういう人だと思われたい」といった意識が働かないよう、一問一問素早く回答しましょう。

②回答結果を集計

全ての設問に答えたら、回答結果を集計します。キャリアアンカーの8つの分類の内、どの分類のポイントが高いのかを確認しましょう。

③インタビューを実施

キャリアアンカーへの納得度をより高めるため、インタビューを実施します。インタビュアーは、回答者の「過去」「現在」「未来」のキャリアについて複数の質問を行い、回答者はそれに正直に答えましょう。

④インタビュアーと一緒にキャリアアンカーを決定

8つのキャリアアンカーを1位(最も自分らしいもの)から8位(最も自分らしくないもの)まで順位付けします。インタビュアーと回答者の意見が一致するまで話し合いましょう。
1位に選ばれたものが、回答者に最もマッチしたキャリアアンカーとなります。

【参考】 弊社、はたらクリエイトで実施したキャリアアンカーについての記事はこちら。

仕事への価値観がわかる「キャリア・アンカー」診断を実施。フィットする人材採用や価値観を活かした人事開発にも



キャリアアンカーの留意点

キャリアアンカーを活用する際には、どのようなことに注意する必要があるのでしょうか。3つの留意点を紹介します。

留意点①:キャリアアンカーの分類があてはまらない人もいる

キャリアアンカーには8つの分類がありますが、「どれにもあてはまらない」「診断結果がしっくりこない」という人もいるようです。実際、キャリアアンカーの提唱者エドガー・シャインは、著書で「多くの人は8つの分類のどれかにあてはまるものの、8つの分類とは違うキャリアアンカーを持っている人もいる可能性がある」と伝えています。

「この社員はキャリアアンカーの診断結果が●●だから、こういう価値観の人だ」といったように決めつけるのではなく、あくまで社員のキャリアに対する価値観を測る指標の1つとして、キャリアアンカーを活用すると良いでしょう。

留意点②:どの分類が「良い」「悪い」というものではない

キャリアアンカーの8つの分類はそれぞれ、そのときの状況によって「強み」にも「弱み」にもなる可能性があります。また、企業の「規模」や「組織としてのフェーズ」「抱えている課題」によって、どのタイプの人材を必要とするかも変わってくるでしょう。

そのため、どれが「良い」「悪い」と言えるものではなく、あくまで社員一人ひとりの思考について知る手段の1つとして捉えましょう。

「キャリアアンカーが●●の人だけを採用する」
「キャリアアンカーが▲▲の人だけをマネージャーに抜擢する」

といった対応をするのではなく、社員の価値観の多様性を受け止めた上で、

「キャリアアンカーが●●の人が入社すると、どのような活躍をしてくれそうか」
「キャリアアンカーが▲▲の人にマネージャーになってもらうためには、どのような育成が必要か」

といった観点で、キャリアアンカーの社内での活用を図ると良いでしょう。

留意点③:キャリアアンカーを「知る」だけでなく、社内に「シェアする」

キャリアアンカーは自身がどれに分類されるかを「知る」だけでは、十分な効果が発揮されません。キャリアアンカーの効果を高めるために重要なのは、キャリアアンカーを「知る」だけでなく、社内に「シェアする」ことです。

社員のキャリアアンカーをシェアすることで、異なるキャリアアンカーを有する社員同士が互いの「強み」を高め合ったり、「弱み」を補い合ったりすることができるでしょう。一人ひとりの特徴がより伝わりやすくなるよう、「大切にしたいキャリアアンカー上位3つを自分自身の言葉で言語化」してもらったものをシェアする方法がおすすめです。


キャリアアンカーで社員の価値観を知り、企業の成長につなげよう

キャリアアンカーには、8つの分類があり、それぞれ傾向が異なることが分かりました。キャリアアンカーは社員一人ひとりのキャリアに対する価値観を測る1つの指標で、必ずしも全ての人に当てはまるものでも、どの分類が「良い」「悪い」というものでもありません。

社員の価値観の多様性を受け止めた上で、「採用」「新人教育」「人材育成」「人事異動」などの場面で活用してみてはいかがでしょうか。

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