【診断チェックリスト付き】アサーションとは?ビジネスにおいて必要とされる理由やトレーニング法を紹介

相手も自分も大切にする自己表現である「アサーション」。よりよい人間関係を構築するためのコミュニケーションスキルとして、教育や医療、ビジネスなど、さまざまな分野で活用されています。「チームや組織のコミュニケーションを活性化するために、アサーショントレーニングを研修で導入したい」と考える人事担当者の方もいるのではないでしょうか。今回はアサーションの意味や3つのコミュニケーションタイプの特徴、実践ですぐに活用できるトレーニング法などを紹介します。
アサーションとは、相手も自分も尊重するコミュニケーションスキルのこと
「アサーション」とは、相手も自分も尊重しながら、率直に自己表現を行うコミュニケーションスキルのこと。英語では「assertion」と表記し、日本語では「主張」「断言」と訳します。
コミュニケーションをとる際、相手や自分の状況によって、「言いたいことが言えない」「伝え方がわからない」と悩むこともあるでしょう。逆に、言いたいことを伝えたために、「相手を不愉快にさせる」「傷つける」こともあります。アサーションスキルを身に付けることで、このようなコミュニケーション上の問題を解消し、円滑な相互交流ができるようになると言われています。

「アサーション」の本来の意味と発展
アサーションは、1950年代半ばに北米で生まれた考え方です。人間関係やコミュニケーションに課題のある人を対象としたカウンセリングの方法として、精神医学、行動医学の用語として記述されたのが始まりと言われています。その後アメリカにおいて、人種差別や男女差別を受けてきた人々の人権を守るために、また人の尊厳を脅かすものへの「警鐘」として浸透していきました。現在では教育、福祉、産業など、さまざまな分野で活用されています。
ビジネスにおいてアサーションが必要とされる理由
近年、ビジネスシーンにおいてもアサーションスキルは注目されています。なぜ必要とされているのか、その理由を2つご紹介します。
組織のコミュニケーションが活性化し、信頼関係が強くなる
企業がミッションの実現に向けて成長し続けるには、組織の信頼関係が重要です。そのためには、従業員同士のコミュニケーションが円滑に行われる必要があるでしょう。社内でアサーションの考え方が取り入れられれば、従業員同士が立場や価値観の違いを越えて、対等に意見交換できる関係性を構築できます。たとえば会議や議論の場などでも、選択肢を出し合い、合意のための歩み寄りがスムーズに行われるようになるでしょう。コミュニケーションが活性化されれば心理的安全性が担保され、新たなイノベーションの創造や、生産性向上なども期待できます。
顧客と良好な関係を築くため
商品やサービスを提供する顧客とのやりとりにおいて、取引や契約、問題解決のための交渉が欠かせません。双方にメリットのある交渉を行うことが非常に重要ですが、条件や関係性によっては、立場の弱い側が主張をしにくくなる可能性もあるでしょう。アサーションスキルを身に付けることで、取引先の立場にも理解を示しつつも、自社の状況や想いをはっきりと伝え、代理の提案をするといったことができるようになります。
アサーションでの3つのコミュニケーションタイプ
アサーションの考え方では、コミュニケーションのタイプを大きく3つに分類しています。それぞれの特徴を詳しく説明します。
ノン・アサーティブ (非主張型) | アグレッシブ (攻撃型) | アサーティブ (アサーションを実現した自己表現 |
・引っ込み思案 ・卑屈 ・消極的 ・自己否定的 ・依存的 ・他人本位 ・相手任せ ・相手の承認で決める ・服従的 ・黙る ・弁解がましい ・「私はOKでない、あなたはOK」 | ・強がり ・尊大 ・無頓着 ・他社否定的 ・操作的 ・自分本位 ・相手に指示 ・自分の命令に従わせる ・支配的 ・一方的に主張する ・責任転嫁 ・「私はOK、あなたはOKじゃない」 | ・正直 ・率直 ・積極的 ・自他尊重 ・自発的 ・自他調和 ・自他協力 ・自己選択で決める ・歩み寄り ・柔軟に対応する ・自己責任で行動 ・「私もOK、あなたもOK」 |
(出典:平木典子「アサーション入門 自分も相手も大切にする自己表現法」より抜粋)
ノン・アサーティブ(非主張型)
「ノン・アサーティブ(非主張型)」の自己表現は、「自分の意見や気持ちを言わない」または「言っても相手に伝わりにくい」のが特徴です。表現の裏には、自信のなさや消極的な態度、あきらめの気持ちなどが潜んでいます。しかし、ノン・アサーティブな表現は相手を心から配慮し尊重したものではないため、「わかってもらえなかった」「譲ってあげたのに報われなかった」「惨めだ」という気持ちが残りやすくなります。
アグレッシブ(攻撃型)
「アグレッシブ(攻撃型)」は、相手の気持ちを無視・軽視して、自分の意見や考えを押し付けることが特徴です。「常に自分が優先されるべきだと考える人」「思い通りに人を動かしたいと考える人」が取りやすい言動と言えるでしょう。アグレッシブタイプの意見は通りやすいのですが、結果的に本人が後味の悪い思いをしたり、人々から敬遠されたりすることにつながります。
アサーティブ(アサーションを実現した自己表現)
「ノン・アサーティブ」と「アグレッシブ」の自己表現が理想的なバランスで行われるタイプが「アサーティブ」です。相手も自分も尊重するため、「自分の考えや気持ちを素直に捉え、攻撃的にならず正直に伝える」(話す)と、「相手の反応を受け止めようとする」(聞く)の、両方を実現できます。「自分の思い通りにはならない」ことを前提としてコミュニケーションをとるので、前向きで建設的な意見交換や歩み寄りが可能です。
自分のコミュニケーションタイプを診断するチェックリスト
アサーティブなコミュニケーションを身に付けるためには、自身の表現方法がどのタイプに近いのかを知ることが重要です。自己表現の傾向を知るためのチェックリストを用意しましたので、是非ご活用ください。
(出典:平木典子「アサーション入門 自分も相手も大切にする自己表現法」より抜粋)
「社内研修で使えるアサーショントレーニングとは
社内研修などでアサーショントレーニングを導入したいと考える、人事・研修担当者の方もいるのではないでしょうか。社内研修などですぐに使えるトレーニングの実例を紹介します。
アサーションコミュニケーションを実践するには、まず「基本の型」と言われている「DESC法」を理解することが大切です。

この型をもとにコミュニケーションの準備をし実践すれば、アサーティブな表現を習慣化できます。2つの事例を使ってトレーニングしてみましょう。
トレーニング事例①:上司からの急な依頼に対応する
あなたは今、自身が抱えている仕事で忙しく、余裕のない状態です。しかし上司である課長から「すぐに急ぎの書類を作成してくれないか」と声をかけられました。
あなたが普段選びがちな回答は、次の内のどれでしょうか。
A. 断り切れず「はい、わかりました」と、仕方なく引き受けてしまう B. 「私の担当ではないので」ときっぱり断る
Aを選んでしまうと、「強引に言えば、少し無理をしてでも引き受けてもらえる」と上司に思われてしまいます。またBの場合、気持ちを正直に伝えているものの、相手が受ける印象は決してよいものではないでしょう。アサーティブなコミュニケーションでは、下記のように返答することが理想です。
D(事実を伝える) | 今は優先して作成しなければならない資料がある |
E(自分の気持ちを表現する) | 課長がお忙しいことはわかる、手伝いたい気持ちはある |
S(提案・お願いをする) | 明日の午後以降なら対応可能 |
C(選択・結果を示唆する) | 他に対応できそうな人を探す |
アサーティブな返答のまとめ
課長、申し訳ございません。今は優先して作成しなければならない資料があり、すぐに対応ができません。しかし、課長がお忙しいことはわかりますし、お手伝いしたい気持ちもあります。明日の午後以降でしたら対応可能ですが、いかがでしょうか?もしくは、他に対応できそうな人を探しましょうか?
このように自己表現ができれば、上司は状況を的確に理解し、冷静に受け止めることができるでしょう。また、代替案や選択肢を示唆しているため、自分の主張を通すだけでなく柔軟に対応できる姿勢を伝えられます。
トレーニング事例②:部下のミスを注意し、改善してもらう
最近、部下によるミスが目立つようになりました。ミスの内容は提出書類の記載漏れなどです。本人はやる気があり、注意すると「改善するように努力する」と言います。しかし、なかなか改善されません。
あなたが普段選びがちな回答は、次の内のどれでしょうか。
A. 部下に注意することをあきらめ、自分で修正する B. 「何度注意したらわかるのか」と一方的に伝える
Aを選ぶ場合、部下との関係性に大きな変化はありませんが、客観的なフィードバックができないため、本当の意味で部下を尊重しているとは言えません。Bの場合、部下を萎縮させてしまうだけでなく、信頼関係の構築でもよくない影響を与えます。アサーティブなコミュニケーションでは以下のように伝えることが理想です。
D(事実を伝える) | このところ書類の記載漏れが多くて気になっている。すでに何度か伝えている |
E(自分の気持ちを表現する) | なかなか改善されないので心配している |
S(提案・お願いをする) | 記載漏れをしてしまう原因や、解決方法を改めて考えてみてはどうか |
C(選択・結果を示唆する) | ミスが改善されれば、周囲からさらに信頼を得られるだろう |
アサーティブな返答のまとめ
このところ書類の記載漏れが多いのが気になっています。すでに何度か伝えているよね。いつも丁寧に仕事してくれているあなたらしくないなと、心配しています。この機会に、記載漏れをしてしまう原因や、解決方法を改めて考えてみてはどうかな。ミスが改善されれば、周囲からの信頼をさらに得られると思うよ。
このように伝えれば、部下自身に問題点を認識してもらい、具体的な改善案を考えるよう即すことができます。また、注意を受ける部下もストレスを感じることなく、フィードバックを素直に受け止められるでしょう。
アサーティブなコミュニケーションを学べる本と研修
アサーティブなコミュニケーションスキルを詳しく学びたい方にオススメの本と研修を紹介します。
『アサーション入門ー自分も相手も大切にする自己表現法』(講談社現代新書)【著】平木典子
日本におけるアサーション研究の第一人者が、アサーションの考え方や実践方法をわかりやすくまとめた1冊。心理学の知恵をベースに、日常でのやりとりに役立つ事例や手法を紹介しています。家族とや友人、仕事でのコミュニケーションなど、幅広い分野で参考にできるため、入門編としてオススメの本です。
『ビジネスパーソンのためのアサーション入門』(金剛出版)【著】平木典子、金井壽宏
アサーションの考え方に、経営学・組織開発の理論を掛け合わせて生まれた1冊です。会社や組織内でどのようにアサーションを実践するべきか、対話形式でまとめられています。マネジメントやリーダーシップ、キャリア開発などを、アサーションの考え方で捉えることができる本です。
日本・精神技術研究所によるセミナー
心理学をベースにしたアセスメントやトレーニングを提供している企業で、40年以上にわたり心理サービスを提供してきた実績があります。平木典子氏と共同で開発されたアサーショントレーニング講座は、開講して以来1万人以上が受講しているようです。トレーニング基礎プログラムと、トレーナートレーニングコースがあります。
アサーティブジャパンによるセミナー
「人と人とのよりよいコミュニケーション」を目指して活動しているNPO法人アサーティブジャパンでは、全国各地での講座の開催、トレーナーの派遣、トレーナーの育成などを手がけています。グループワークやロールプレイなどを取り入れ、実際の事例をもとに学べるのが特徴です。
アサーティブなコミュニケーションで風通しのよい組織を作ろう
組織やチームにアサーションの考え方を浸透させることで、コミュニケーションの活性化や、信頼関係の構築などの効果が期待できます。アサーティブな自己表現は、日常の中で実践を繰り返し習慣化できれば、自然と身に付けられるものです。まずはチェックリストなどを通して、自身のコミュニケーションタイプを知り、受け止めることから始められるとよいでしょう。今回ご紹介した本やセミナーなどを活用し、アサーティブなコミュニケーションができる風通しのよい組織づくりを目指してみてはいかがでしょうか。